アジアの貧困軽減と人的資源育成に対する日本の技能実習制度の貢献 : タイとスリランカの経験について

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タイトル別名
  • The Contributions of Japanese Technical Internship Program to Poverty Alleviation and Human Resource Development in Asia : the Case of Thailand and Sri Lanka

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抄録

本稿の主な目的は、創設から30 年続いてきた日本の外国人技能実習制度について、アジアの視点を中心にマクロレベルとミクロレベルで実証的に検証することである。ちょうど30年目の節目に技能実習制度が大幅に見直されることとなり、国内の労働力不足を全面に打ち出し、人材確保と人材育成を目的とする新制度の創設が決定されている。これまでの外国人技能実習制度は、日本が先進国として国際貢献の役割を果たしつつ、国際社会との調和ある発展をはかるため、開発途上国等の外国人を日本で一定期間(最長5 年)に限って受け入れて、OJT を通じて技能や技術、知識を移転しながら、開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的に制度設計されたものであった。日本の人づくりの手法は、アジア諸国の貧困、不平等、失業などの深刻な経済的社会的問題の軽減に貢献し、持続可能な経済発展を実現させる可能性を秘めている。日本で設計された外国人技能実習制度の下では、「学問的知識」と同時にその知識を具現化する「実証的訓練」と「社会的価値観」の発展を目指した人的資源育成を重視している。同時にその能力を「生産化」できる資金も提供できるものである。つまりOJT を通じて「働きながら学ぶ」機会と、「学んだ知識を生産化」できる「資金」と、日本の「労働価値観」を獲得できる機会をアジアの人々に与えているといえる。このような人的資源育成のやり方は貧困削減の実現可能性を高める。日本や韓国、台湾などの東アジア諸国が急速に経済発展を実現できた要因の一つには、こうした独特の人的資源育成のあり方が鍵であったと考える。  本稿は、この30 年にわたる国際貢献を軸に展開してきた日本の外国人技能実習制度の貢献について検討する。第一に、日本の外国人技能実習制度の30 年間の展開と実績をマクロレベルで分析する。第二に、修了し帰国した技能実習生が日本で獲得できた知識、とくに社会的価値観と労働倫理、および資金について、彼らはどの程度、自己の貧困軽減に役立てることができたのかについて、タイとスリランカで実施した聞き取り調査から明らかにする。そして最後に、日本の政府・財団・民間団体によるアジア人的資源育成活動に関する長所・短所を明らかにする。  本研究で明らかになったことは次のとおりである。日本の外国人技能実習生の多くはアジア出身である。しかしながら、中国のように経済発展の結果、中国人技能実習生の送り出し数と割合は小さくなった。一方で東南アジア諸国からの受入数はベトナムを中心に拡大していった。東南アジア諸国との経済関係は、日本の海外直接投資の拡大とともに日系企業が進出し、同諸国における人的資源育成の必要性が高まっていた。ベトナムをはじめ多くの東南アジア諸国は自国労働力を海外に送出することで得られる外貨や外国との経済関係の深化のために、労働力輸出政策を積極的に展開している。需要と供給がマッチングし、日本はベトナムを中心に多くの技能実習生を受け入れるようになっていった。しかし「研修生」の数が大幅に減少し、代わりに技能実習生の受け入れが拡大していった点をみると、労働力不足が起因していたと考えられる。都道府県別でみると、明らかに食品製造、建設、農業、機械・金属の分野に集中し、高齢化と労働力不足が問題となっている地域・分野で多くの技能実習生が受け入れられている。このことから、労働力不足が最も大きな技能実習生の受け入れ要因になっていることが示唆される。  次にタイとスリランカで実施した聞き取り調査の結果から、現地政府の協力を得て、技能実習制度のあり方を理解した財団等が、技能実習生候補者に対して費用負担を強いずに、受入れを希望する日本企業側のニーズに合わせて、適正な人的資源育成を実施することで、実習修了生の満足度を高められることが明らかになった。修了生は日本語能力を高め、そのコミュニケーション力で日本人との交流を続けているケースが多くみられた。また、タイ人修了生の経験から、貧困軽減に効果があることも明らかとなった。

収録刊行物

  • 地域産業論叢

    地域産業論叢 (19), 19-38, 2024-02

    沖縄国際大学大学院地域産業研究科

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