ウィーン分離派とアドルフ・ロース --世紀末ウィーンにおける装飾とセクシュアリテイ--

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  • 古川, 真宏
    京都大学大学院人間・環境学研究科共生人間学専攻

書誌事項

タイトル別名
  • The Vienna Secession and Adolf Loos : Ornament and Sexuality in Fin-de-siècle Vienna
  • ウィーン分離派とアドルフ・ロース : 世紀末ウィーンにおける装飾とセクシュアリティ
  • ウィーン ブンリハ ト アドルフ ・ ロース : セイキマツ ウィーン ニ オケル ソウショク ト セクシュアリティ

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説明

本論考は, 19-20世紀転換期のウィーンにおいて, なぜ装飾が芸術における主題となりえたのかという間いに対してセクシュアリティの観点から考察を試みるものである. 当時のオーストリアの装飾芸術を牽引していたのは, グスタフ・クリムトを筆頭とする芸術家団体ウィーン分離派であった. それに対して反装飾の代表的な論客である建築家アドルフ・ロースは, 様々な論考のなかで分離派とその装飾の用法を糾弾するとともに自身の建築において装飾を排除しようとする実践を試みた. しかし分離派とロースの関係は単純に対立的な図式を描ける氾ど単純なものではなく, むしろ一見相反する立場にあった両者の開にセクシュアリティを軸として密やかな共犯関係が結ばれていたことが本稿で明らかにされる. 分離派とロースはともに装飾をエロティックな鵠動の「昇華」と考えており, 装飾は一種のフェティッシュとして規定される. そこで本論考では両者の装飾に関する昔説に内在する論理をフェティシズムの観点から分析・詑較を試みる当時の文脈においては, 装飾は性的な衝動の代償として, また無装飾はその否定として理解されるしかしながら, フェティッシュが欲望の向けられる対象の置き換えである限りにおいて, 装飾の不在それ自体もまたフェティッシュへと転じうるしたがって, 装飾の抑制, すなわち性衝動の露軍の禁止もまた, エロスを助長するものへと転倒してしまう可能性が生まれてくる. その意味では, 装飾愛好と反装飾のいずれもがエロティックなものを志向しているのである. しかしながら, 分離派の装飾芸術の旗手であるグスタフ・クリムトとロースの実践を見比べてみると, 両者とも装飾をエロティックな欲望を充足させるものとして扱っているとは必ずしも言い難い. クリムトの<<アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像I>>とロースの「ジョセフイン・ベイカー邸」に見られる装飾の用法には女性という脅威に対する防衛の意味が込められており, 女性に向けられた男性の性的な眼差しを欺く「仮面」として装飾が用いられている. 装飾とは性的な強迫観念に駆られた男性がエロティックなものと対峠するために必要とする仮面なのだ.

収録刊行物

  • 人間・環境学

    人間・環境学 21 49-65, 2012-12-20

    京都大学大学院人間・環境学研究科

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