主観のれん説の総合的検討 : 資産の評価規約 (4)

書誌事項

タイトル別名
  • シュカン ノレンセツ ノ ソウゴウテキ ケントウ : シサン ノ ヒョウカ キヤク (4)
  • Shukan norensetsu no sogoteki kenkyu : shisan no hyoka kiyaku (4)
  • Comprehensive examinations of the theory of subjective goodwill : its asset valuation rule (4)

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抄録

type:text

これまでに,主観のれん説の資産評価規約について,事業資産および金融資産に分けて検討してきたが,結論的には,理論的に完全に破綻している。そこで,本稿では,その理論的欠陥の全体像を纏めるとともに,そのように理論的に破綻するに至った原因を追究することとしたい。金融資産の評価規約については,時価評価につき,原理的妥当性と一般的妥当性の否定といった晦渋な論理を用いざるを得ないことにより,その理論的な破綻が明らかであるのに対して,事業資産の場合には,事前計算の割引現在価値から,さりげなく,事後計算の取得原価評価が主張されているので,ともすれば,そこには,何の問題もないと思い込まされてしまう。しかし,企業価値評価の発想に基づくかぎり,つまり,[購入時の将来期待収入額(割引現在価値)=市場平均の期待収入額(売却時価)+主観のれん額]というシェーマに依拠するかぎり,いくら事後計算化しても,主観のれん額を未実現額(損益非計上額)とするだけである。したがって,[購入時の将来期待収入額(割引現在価値)―主観のれん額=市場平均の期待収入額(売却時価)]となり,事業資産は,購入時の売却時価で評価されることになる。けっして,取得原価評価にはなり得ないのである。したがって,事業資産についても,金融資産とまったく同じ理論的断絶があるのである。つまり,金融資産および事業資産のいずれにおいても,まったく同じ理論的誤謬を,主観のれん説は犯しているわけである。その原因を具体的にみれば,事前計算を事後計算化するという問題意識しかなく,企業価値評価計算と会計的損益計算とを識別する発想がない,という点に求められよう。この点については,既に示唆してきたところではあるが,本稿では,そうした識別の欠如の原因を,さらに究明することとしたい。結論的には,意思決定に役立つ情報をもって会計情報とみなすFASB 的な会計観,そしてFASB 学に化した日本の会計学研究の在り方に,その根因があるというのが本稿の考えである。意思決定に有用な情報をもって会計情報と定義するかぎり,意思決定に役立つ情報を対象とするかぎり,会計理論とみなされることになる。そのかぎりで,研究者は,あたかも,会計に関する説明理論を構築しているといった錯覚を抱くことになる。しかるに,意思決定に有用なものは,情報一般であり,それには,複式簿記情報と非複式簿記情報とが含まれている。このうち,非複式簿記情報にかかわるものは,現行会計実践が複式簿記を不可欠な技術的機構として含んでいるいじょう,規範理論にならざるを得ない。かくして,説明理論という錯覚を抱きながら,実質的には規範理論を論じている,というのがFASB 学と化した日本の会計学研究の現状なのである。主観のれん説は,その典型と言ってもよいであろう。 こうした説明理論と規範理論とを峻別しないかぎり,日本の会計学は,今後も,主観のれん説にみられるような理論的誤謬,ひいては理論的破綻を再生産し続けてゆくのではないだろうか。

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