“Lycius, look back!”――「レイミア」をめぐる視線

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  • \n“Lycius, look back!”: On the theme of gazes in “Lamia”

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抄録

本論文では、ジョン・キーツの詩「レイミア」の主人公レイミアをめぐる視線を分析する。美しい人間の女に姿を変え、コリントの若者リシアスを誘惑する蛇女レイミアは、男を破滅へと導く「運命の女」として捉えられる。同時に、この作品は、第一部と第二部では、レイミアの描かれ方が異なり、作品における矛盾として批判されることも少なくなかった。しかし、彼女をめぐる視線に目を向ける時、男を翻弄する残酷な美女としての「運命の女」像とは異なる、レイミアの悲劇的な一面が、一貫して浮かび上がってくる。本稿では、レイミアをめぐる視線を分析することで、見過ごされる存在としてのレイミアに着目し、彼女の持つ悲劇性を明らかにする。レイミアが痛みと引き換えに美しい人間の容姿を手に入れても、彼女は視覚的に相手を引き付けることができず、聴覚によるアプローチで相手の心を手に入れる。しかし、それは聴覚への支配が終われば崩れ去る脆い関係でもあり、実際、世俗の音に心動かされたリシアスとの間で愛の終わりが訪れる。レイミアはリシアスやヘルメスの目に留まることを望みながら、視覚的な力では彼らを振り向かせることはできず、彼女の持つ魔術的な言葉に頼る。しかし、彼女が唯一求めなかった視線、アポロニウスの、彼女の正体を暴くその視線だけは、真っ直ぐに向けられるというのは辛辣な皮肉である。また、レイミアはアポロニウスの視線のみならず、キーツの執筆から数十年が経過した後、「運命の女」の格好の題材としてラファエル前派の画家たちによって描かれ、好奇や欲望の視線にさらされることになるのだが、皮肉なことに絵画となり好色の視線を受けることで彼女の姿は現在まで鮮やかに生き延び、ある種の不滅性を帯びることになった。

収録刊行物

  • 湘北紀要

    湘北紀要 (37), 127-139, 2016-03-31

    湘北短期大学

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