川端康成『山の音』と能 : 信吾のカタルシス

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  • A Study on KAWABATA Yasunari's Yamanooto and Noh : Shingo's Catharsis

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抄録

これまでの『山の音』研究では、伝統的な分野においては『源氏物語』ばかりに焦点があてられ、能や謡曲について触れたものは少ない。『山の音』には、能面や謡曲「卒都婆小町」に関する記述が多くみられるにも関わらず、これまであまり研究が進んでこなかったのはなぜだろうか。管見のかぎり、それは『山の音』に研究者による注釈がないからだと考える。また、能に触れられているものでも、謡曲「卒都婆小町」からの引用がみられる、との指摘に留まるものが多く、菊慈童や面に関しても表面的に論じられているだけである。しかし、『山の音』と能の関わりを論じる際、表面をさらうだけでは見えてこないものがあるのではないか。『山の音』の深層に潜むものを読み解くには、能または謡曲が有効なカギとなってくるに違いない。なぜなら、言葉では描き切れない世界を表現するために、川端が能を用いたと考えられるからだ。そこで本論文では、「春の鐘」を中心に、『山の音』に表象された能に注目し、『山の音』は <血の繋がり> に願いを込めた信吾が、<血の繋がり> を持たない菊子によって救われる物語であることを明らかにしたい。

収録刊行物

  • 日本語日本文学

    日本語日本文学 (24), 61-77, 2014-03-20

    創価大学日本語日本文学会

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