『ヒルビー教区』に見るラファエル前派的要素

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タイトル別名
  • 『 ヒルビー キョウク 』 ニ ミル ラファエル ゼン ハテキ ヨウソ
  • 『ヒルビーキョウク』 二 ミル ラファエル ゼンパテキ ヨウソ
  • Influence of the Pre-Raphaelite Brotherhood in The Parish of Hilby

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抄録

本論文はメアリ・E・マンの小説『ヒルビー教区』に認められるラファエル前派的要素に注目する。1ヴィクトリア朝後期のノーフォークを舞台にしたこの小説のヒロイン像は、当時、ロンドンで大流行していたラファエル前派の絵画に描かれる女性像を想起させる。彼女の容貌やたたずまい、そして身にまとう衣服の描写からは、ダンテ・ガブリエル・ロセッティの「スタナー」と呼ばれる絶世の美女のイメージが思い浮かぶ。ヒロインが常に森の草花とともに描写されることも、ロセッティがキャンバスの女性像を取り囲むように花を描くことを連想させる。さらにこの小説では、ラファエル前派の芸術家に大きな影響を与えた浪漫派の詩人、キーツの詩を彷彿とさせる情景も展開する。また室内の描写からは、ウィリアム・モリスのアーツ・アンド・クラフツ運動や、オスカー・ワイルドの「ハウス・ビューティフル」の概念、ひいては世紀末にヨーロッパを覆い尽くす流れとなっていく唯美主義の気配も感じられる。小説全体を貫くこれらのラファエル前派的な要素は、読者受けする同時代的要素であるとともに、ヴィクトリアニズムの縛りから脱却していく過渡期の女性像を映し出すものとして作用している。

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