団地映画としての『しとやかな獣』 --川島雄三と団地の戦後--

  • 今井, 瞳良
    京都大学大学院人間・環境学研究科共生人間学専攻

書誌事項

タイトル別名
  • Elegant Beast as a Danchi Film --Postwar in Kawashima Yuzo and Danchi--
  • ダンチ エイガ ト シテ ノ 『 シ ト ヤ カナケモノ 』 : カワシマ ユウゾウ ト ダンチ ノ センゴ

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説明

本稿は, 『しとやかな獣』(川島雄三監督, 1962年)を「団地映画」として分析することで, 戦後という歴史性を導入し, 当時の団地言説や家族論に位置付けて論じることを目的とする. 団地は戦後の住宅不足を背景に登場した歴史的な空間であり, 映画の中の団地も戦後という時空間と切り離して考えることはできない. これまで『しとやかな獣』は, 団地の空間構成と住民である前田一家の精神が一致していることが指摘されている. また, 家族論においては, 団地2DKの間取りが空間化された家族規範と捉えられており, 間取りと住まい方の実践は一致しているものと見なされてきた. 『しとやかな獣』を分析するにあたって, 本稿が着目するのは空間と人物の関係である. なぜなら, 本作において間取りと住まい方は一致しておらず, 空間を作り変える人物が主導権を握っていく. 多孔性という特徴を持つ団地で襖を閉めるという行為によって空間を作り変えていた前田一家は, 幸枝に空間を構成する主導権を奪われていく. 戦後直後の「雨漏りのするバラック」から多孔的な団地へ移り住んだ前田一家が維持していた家族形態は, 空間の主導権を奪われることで崩壊していく. 団地という空間と住民である前田一家との関係に着目して『しとやかな獣』を分析し, 前田家の住まい方の実践が戦後の家族規範の不安定さを暴いていることを明らかにした.

収録刊行物

  • 人間・環境学

    人間・環境学 27 35-45, 2018-12-20

    京都大学大学院人間・環境学研究科

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