遺伝子組換えによるウイルス抵抗性植物作出に関する研究

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  • イデンシ クミカエ ニヨル ウイルス テイコウセイ ショクブツ サクシュツ ニ

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抄録

遺伝子組み換えによるウイルス抵抗性植物の作出を目的として、種々の遺伝子をNicotiana benthamianaまたはN.tabacumに導入し、以下の結果を得た。 1.主にマメ科を宿主とするポティウイルスのなかで最も重要なインゲンマメ黄斑モザイクウイルス(BYMV)のゲノムRNAの全塩基配列を決定し、そのゲノム構造を明らかにした。BYMV RNAはポリA配列を除いて9532塩基からなっており、第191塩基から第9361塩基まで、9171塩基からなる長い一本のORFが見いだされた。このORFは3056アミノ酸残基からなる分子量347571ダルトンのタンパク質をコードしており、外被タンパク質はC末端に位置し、273アミノ酸残基と予想された。 2.BYMV外被タンパク質遺伝子を高発現プロモーターに連結し、アグロバクテリウム法によりN.benthamianaを形質転換した。得られた形質転換体は、ウエスタン法で充分検出できるレペルのCPを発現しており、その発現量は1mg組織あたり2-10ngであった。 3.BYMV外被タンパク質遺伝子を導入したN.benthamianaにBYMV、クローバ葉脈黄化ウイルス(CIYVV)、ジャガイモYウイルス(PVY)を接種したところ、ホモロガスなBYMVに対しては抵抗性を示したが、近縁なポティウイルスであるClYVVに対してはほとんど抵抗性が認められず、遠縁のポティウイルスであるPWには全く抵抗性を示さなかった。 4.RT-PCR法によりキュウリモザイクウイルス(CMV)RNA3をクローニングし、3a遺伝子のアンチセンスに+鎖を切断するようにデザインしたリポザイムを組み込んだ。このin vitro転写RNAを粒子から調整したCMVRNAと混和したところ、予想された位置でCMVRNA3を切断することが確認された。しかし、反応前に熱変性を行わない場合は著しく切断活性が低かった。 5.リポザイムを組み込んだCMVRNA3の3a遺伝子のアンチセンス、未改変のアンチセンスおよび外被タンパク質遺伝子を導入した形質転換タバコを作出した。RI世代にCMVを接種したところ、いずれのコンストラクトにおいても抵抗性系統が得られた。 6.CMV外被タンパク質遺伝子導入個体、3aアンチセンス導入個体のすべて、およびほとんどのリボザイム導入個体の抵抗性は、高濃度のウイルス接種により打破され、病徴遅延型であった。一方、リポザイム導入個体の1系統(Rz204)は高濃度のウイルス接種によっても打破されない無病徴型の抵抗性を示した。 7.Rz204後代の抵抗性を詳細に調べたところ、個体ごとに抵抗性にばらつきがあり、接種葉に対照と同様の黄色斑が形成するにもかかわらず上位葉には全く病徴が現れない高度抵抗型(HR)、上位葉に葉脈黄化やモザイクが現れるが対照より著しく軽微な中度抵抗型(MR)、1~2日程度対照より発病が遅れるが、その程度にほとんど差がない低度抵抗型(LR)の3つのタイプが認められた。 8.HR、MR、LR各々の個体のウイルス増殖は病徴と一致していた。しかしノーザン解析の結果、トランスジーンの蓄積量は抵抗性の低い個体ほど多く、負の関係にあった。またHRタイプの個体においてトランスジーンの部分分解産物が検出され、トランスジーンの不活化が予想された。 9.Rz204後代のゲノミツクサザン解析の結果、3遺伝子座に導入されていることが判明し、そのうち2座は不完全な形であると思われた。完全と思われる1座をホモにもつ系統は、すべての個体がHRタイプを示し、それを非形質転換体に交配して得られたヘテロ系統はHR、MR、LRタイプが混在していた。これらの結果から、複数コピー導入によるgene silencingが予想され、Rz204の高度抵抗性はhomology-dependent resistanceであると判断された。 10.複数ウイルス抵抗性付与を目的として、哺乳動物細胞のインターフェロンの作用によって誘導される2’、5’-oligoadenylate synthets(2-5Aase)、double-strandedRNA-dependentproteinkinase (PKR)をタパコに導入した。 11.2-5Aasc導入タバコは29個体得られ、そのうちME116のR1個体を用いてノーザン解析を行ったところ、適切な位置に明瞭なパンドが検出され、2-5Aaseの発現が確認された。この系統についてCMVとPVYに対する抵抗性を検討したところ、いずれを接種した場合も非形質転換体と比べて1~3日の発病遅延が認められ、グループの異なる2種のウイルスに低抗性を示すことが明らかとなった。 12.PKR導入タバコは1個体しか得られず、PK1のR1個体を用いてノーザン解析を行ったが、予想される位置にシグナルは検出されなかった。しかしながらCMVとTMVに対する抵抗性を検討したところ、CMV接種に対し病徴発現の遅延と病徴の軽減が認められ、またTMV接種に対し接種葉局部病斑数の減少が認められ、グループの異なる2種のウイルスに対する抵抗性が確認された。 以上の結果から、1)外被タンパク質遺伝子導入法がウイルス種に関わらず安定して利用可能であること、またその抵抗性スペクトルには限界があること、2)ウイルス由来遺伝子導入個体において、低頻度でhomology-dependent gene silencing現象が認められ、単一のウイルスに対する強力な抵抗性を発揮すること、3)2-5AaseやPKRといった動物の抗ウイルスシステムに関与する遺伝子を導入することにより、複数ウイルス抵抗性を付与することが可能になること、等が明らかとなった。これらの知見は、実用的なウイルス抵抗性作物作出のための最適手法を選択する上で有益なものである。

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