日本産硬骨魚類の耳石の外部形態に関する研究

書誌事項

タイトル別名
  • Otolith morphology of teleost fishes of Japan
  • ニホンサン コウコツ ギョルイ ノ ジセキ ノ ガイブ ケイタイ ニ カンスル ケンキュウ

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説明

耳石形態に関する研究は,魚類年齢研究と共に早くから行われており,研究報告も比較的多い。それらの内容は,一魚種の耳石外形から複数魚種の耳石の外形,溝,核等の特徴を解析した研究まで様々である。しかし,耳石サイズを含めて耳石形態を体系的に整理した報告はこれまで発表されていない。筆者らは,耳石の形と大きさを分類群内,分類群間で比較を行い,さらに縦偏形,側編形等の魚体型や定着性,回遊性等の生活型との関連を検討することにより,多用な耳石形態法則性を見いだすことを目的として,日本産硬骨魚類29目,162科,550種の耳石を収集し,表面各部の観察と耳石の長さと高さの計測を行った。本稿では第1章において,耳石形態研究が国内外でどのような研究経緯で進められてきたかを簡潔に述べ,次に,耳石の外部形態について,全体の形および各部位の形状を類型化し,さらに耳石の大きさの基準を決めた。第2章では魚種毎の観察結果,計測結果を基に,魚種毎の耳石形態を分類群毎に整理して記載した。第3章では各章で得られた耳石形態の特徴を総括し,耳石形態に関する系統進化学的,生態学的,機能形態学的な検討を行い,耳石形態を規定する要因を考察した。耳石平面形は,楕円形が一般的であり,耳石長比(耳石高に対する耳石長の比)が0.8~3.0の魚種が,全体の約83 %を占めた。ただし,耳石長比が3を超える広線形は16種に限られていた。しかし,それらは,ムネダラ,ギンダラ,オニカサゴに加え,エソ類,コチ類,カマス類,マグロ類の一部から構成されており,広い分類群にわたっていた。長方形の耳石はマサバ,ゴマサバ,カツオの3種であり,また不定形の帆船に似た特異な型の平面形はマトウダイ目とフグ目のみに見られる特徴であり,分類形質として有用であると考えられた。側面形については,全体の3/4以上の魚種が,外側に反った耳石を有していることが示された。突出隆起型はニベ科に特有な形状である。また,逆反り状型で弱いながらも内側に反った耳石(溝側に僅かに湾曲)は,マツカサウオ,シラウオ,ナガレメイタガレイ,イヌノシタのみにみられており,種判別に有用であると考えられた。 溝の形については,全体の3/4以上の魚種が,耳石前縁の欠刻部から中央部もしくは後縁にいたる構造であることが示された。溝が耳石中央部のみであるのは,カレイ目,ハゼ科にみられる特徴的な型であるが,これら分類群以外ではリュウキュウホラアナゴ,ホタテウミヘビ,ヒモアナゴ,インキウオ,ワヌケフウリュウウオにみられた。耳石の形状をまとめると,併せて40 %以上の魚種が,外側に反った楕円形で溝が欠刻部から後縁付近まで形成されている耳石を有していることが示された。また,耳石形状から魚種が数種に絞り込むことができるのは70種弱であり,全体の12 %程度しか種判別ができないことがわかった。しかし,種レベルではなく分類群レベルでは,前述のように特有の耳石形状を有する場合が多く,本論文が耳石から分類群を推定する際の有用な資料となるものと考えられる。耳石外部形態の形成要因については,平面形,側面形,溝のいずれの類型も複数の分類群に共通しており,系統進化学的な傾向が認められなかった。平面形が円形の魚種はソコギス科とハゼ科,クサウオ科,ゲンゲ科,ヒラメ科の一部,ゴンズイ,キントキダイ,サンゴタツ,マメハダカ等であり,これらのほとんどは底棲魚類である。広線形の魚種はカマス科,クロタチカマス科,エソ科の一部とヒカリフデエソ,ムネダラ,ギンダラで,底棲魚類も少なくなかった。このように,同じ底棲性であるのに最も丸みがある形状と最も長い形状のものが存在し,生活型が平面形を規定するとは考えられなかった。溝については,十分に発達しているタイプの分類群は,その80 %以上の種がニシン目,サケ目,タラ目,アイナメ科,ホタルジャコ科,ハタ科,テンジクダイ科,アジ科,イサキ科,タイ科,クロタチカマス科,サバ科,フグ目であり,十分に発達していないタイプの分類群は,その60 %以上の種がウナギ目,コチ科,フサカサゴ科,カジカ科,クサウオ科,ゲンゲ科,タウエガジ科,ハゼ科,カレイ目であった。総じて,遊泳性もしくは集群性の強い魚種が多い分類群は溝が発達し,定着性もしくは底棲性の強い魚種が多い分類群は溝が発達していない傾向がみられた。更には,メバル属では,生息水深が浅いほど耳石後縁まで達せず中央と後縁の途中で途切れるタイプが多かった。今回は溝の深さを計測しなかったが,溝の形・大きさと生活型との関連性が示唆された。 耳石の大きさについては,全体として体長の大きな魚種ほど相対サイズ(全長に対する耳石長の比)が小さくなる。耳石相対サイズが5以下の魚種は,体型が紡錘形,ウナギ型の魚種もしくはカジキ類,フグ類に多い。これに対して相対耳石サイズの大きい魚種は,頭部が体長に対して相対的に大きな魚種が多い。したがって,耳石相対サイズは,沿岸性,外洋性,底棲性,遊泳性というグループ分けや生活型では解釈しきれず,頭部の大きさや分類群毎の特性によるものと考えられる。耳石の形を特徴付ける耳石長比についても,前述のように系統進化学的な傾向は認められなかったが,頭部が縦扁している魚種は耳石長比が大きく,頭部が丸い魚種は耳石長比が小さい傾向があった。したがって,耳石の大きさや細長さは,頭部の大きさや形,神経頭蓋の耳殻部の大きさや形に大きく規定されるものと考えられた。

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