シロイヌナズナの紫外線耐性遺伝子の解析

この論文をさがす

抄録

植物にとって紫外線は避けることのできない環境因子である。植物の紫外線耐性機構については、色素等による紫外線の吸収や紫外線によって傷ついたDNAの修復などが重要と考えられている。我々は、イオンビームを変異原として、今まで誰も獲得したことのない紫外線耐性変異体を単離することにより、紫外線耐性に関わる未知の因子を明らかにできるのではないかと考え、研究を開始した。炭素イオンビームで変異原処理したシロイヌナズナのM2種子を播種し、紫外線環境下で生育の良い個体を選抜した。M5世代まで表現型を確認し、最終的に4系統の紫外線耐性変異体(uvi1~4)を得ることに成功した。UV-B環境下での生育量は、野生型に比べて2倍程度高い値を示した。葉に含まれる紫外線吸収物質の量は、いずれの変異体においても野生型と差が見られなかった。一方、DNA修復能については、uvi2は光回復能、uvi3は暗回復能、uvi1は光回復能と暗回復能の両者が野生型に比べて高いことがわかった。しかし、uvi4ではDNA修復能についても野生型と差がみられなかった。この後、表現型が最も特徴的であるuvi1及びuvi4変異体についてさらに調査を進めた。遺伝解析の結果、uvi1は単一劣勢変異であると考えられた。uvi1変異体では、シクロブタン型ピリミジンダイマー(CPD)は明条件下において、6-4光産物は暗黒下において野生型よりも速く修復されることがわかった。また、いずれの光条件下においても、CPDフォトリアーゼ遺伝子の転写量が野生型に比べて高く、フォトリアーゼ遺伝子自身には変異が確認されないことから、修復遺伝子の発現を制御する何らかの因子に変異が生じている可能性が示唆された。uvi4変異体は、葉表面のトライコームの分枝数が増加するという表現型を示し、これが紫外線耐性とリンクしていることがわかった。トライコームの表現型をもとに原因遺伝子のマッピングを進めた結果、At2g42260遺伝子に123bpの欠失が生じていることがわかった。トライコームの分枝数はトライコーム細胞の倍数性と相関があることが知られている。uvi4変異体の倍数性について調査したところ、野生型よりも核内倍加が進むという特徴が見出された。また、4倍体のシロイヌナズナは2倍体のシロイヌナズナに比べて紫外線に強いことが確かめられた。これらの結果から、倍数性が植物の紫外線防御機構の因子として重要であることが示された。核内倍加は、葉、茎、果実などの最終分化した組織で起きる現象であり、生殖系列には影響を及ぼさない。UVI4遺伝子を操作することにより、ゲノム組成を大きく変えることなく紫外線に対する耐性を向上できる可能性がある。

収録刊行物

  • Gamma field symposia

    Gamma field symposia (46), 63-69, 2009-01

    Institute of Radiation Breeding, Ministry of Agriculture & Forestry

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ