シカの採食により退行した冷温帯自然林における植生保護柵による林床植生の回復

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  • シカ ノ サイショク ニ ヨリ タイコウ シタ レイオンタイ シゼンリン ニ オケル ショクセイ ホゴ サク ニ ヨル リンショウショクセイ ノ カイフク

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本研究の目的は、神奈川県丹沢山地の冷温帯自然林において、シカの採食圧により退行した林床植生の回復を目指して設置された植生保護柵(以下、柵)の効果を検証することである。主に林床植生としての群集レベルと、高茎多年生草本とスズタケ、木本の種レベルで回復とその仕組みを生態学的な見地から解明した。群集レベルでは、対象とした4林床型ともに柵を設置して10年経過すると柵内で低木層の植被率と種数が増加した。草本層の種組成は全体として柵内で直立型の多年生草本が増加する一方で、小型の多年生草本や不嗜好性植物が減少する傾向がみられた。種レベルでは、高茎草本は、退行後10年程度経過した柵内で神奈川県の絶滅種と絶滅危惧種など合計12種と神奈川県新産種の1種の生育が確認された。しかし退行後16年程度経過した柵内では絶滅危惧種の種数と個体数は少なかった。スズタケでは、退行して10年程度経過した地域に設置された柵内では、植被率と稈高ともに成長していることを確認できた。一方で、退行後15年程度経過して設置された柵内では稈高は高くなっていたが、植被率は低いままであった。木本では、スズタケが退行して10年程度経過して設置された柵内と柵外で、設置して7年後に高木性木本の稚幼樹の密度と樹高を比較したところ、稚幼樹の密度は柵内で高く、その差は6倍以上であった。樹高は柵内で40〜60cmの範囲にあったが、柵外では10cm程度であった。次に、シカに採食された植物の反応をシカの採食後の開花のしやすさと種の生育型などの生態的特性から検討したところ、採食されても開花しやすい種は、一年生草本や、生育型が分枝型やほふく型、そう生型の小型から中型の多年生草本であり、非開花ないし開花しにくい種は、直立型の生育型をもつ多年生草本であった。また、設置年の異なる柵2か所と柵外で土壌を採取して発芽試験を行ったところ、シカの採食に耐性のないと考えられる直立型の多年生草本は、埋土種子と地下器官の種数ともに先に設置した柵で多く、次いで後に設置した柵、柵外という順であった。以上の結果から、シカの採食影響下において林床植生の衰退した自然林を再生する手段として柵の設置は有効であるが、高茎多年生草本とスズタケを保護するためには早期の設置が望ましいと結論づけた。

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