カキ‘西条’早生系統における生理的ならびに栽培的観点からの系統間比較と生理障害防止対策に関する研究

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  • カキ サイジョウ ワセ ケイトウ ニ オケル セイリテキ ナラビニ サイバイテキ カンテン カラ ノ ケイトウ カン ヒカク ト セイリ ショウガイ ボウシ タイサク ニ カンスル ケンキュウ

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抄録

島根県で栽培されているカキ‘西条’は,早生の“B型”系統と中晩生の“出雲型”系統が主要系統であるが,これらは多くの系統を有する系統群である。特に“B型”系統は樹体生育,果実品質,収量さらには樹上軟化や春季発芽不良といった生理障害発生程度の異なる系統が存在する。そこで,早生“B型”系統中の多収系統の選抜,生理障害防止対策および早期更新技術について検討した。1. 樹体生育,果実品質の早生系等間比較による優良系統選抜 ‘西条’“B型”系統中,起源が異なると考えられる“安部”,“遠藤”,“Bわい性”,“山坂”,“古藤”および“和田”の6系統を供試し,果実生産性の優れた系統の選抜を試みた。これらの系統の中で,“古藤”系はわい化する傾向がみられ,“安部”系は春季の発芽不良症状の発生が多く,ともに生育が他系統より劣った。“和田”系は新梢生長や主幹の肥大が旺盛で,収量が他系統より少なく,熟期が遅かった。“山坂”系は全系統中平均的な生育を示した。“遠藤”および“Bわい性”両系統は,樹冠拡大が優れ,土地面積当たり葉面積指数(LAIf)が他系統と比較して高かった。両系統は,炭水化物生産量が優れ,炭水化物の果実および細根への分配率が高いことにより,果実品質を落とすことなく10 a当たり収量が毎年3 t程度得られると思われた。“B型”系統の中では,“遠藤”系が最も優れる系統であると考えられた。2. 樹上軟化発生の系統間差と防止対策 カキ‘西条’の早生6系統における樹上軟化発生の系統間差とその原因および防止方法について検討した。7~9月の降雨が多い年においても,“遠藤”,“山坂”および“安部”の各系統は細根活性の低下がみられず,果実のエチレン発生量が低く推移し,樹上軟化の発生が少なかった。それに対し,“古藤”系では果実のエチレン発生量が多く,樹上軟化の発生が多かった。樹上軟化の発生は,土壌の過湿により促進されるものの,日射不足はほとんど影響を及ぼさなかった。樹上軟化防止を目的に,Mn肥料の土壌施用および土壌pHの酸性化の効果,多孔質マルチの樹冠下全面被覆の効果について検討した。イオウ華の土壌施用により土壌pHを4.5程度に矯正し,さらにMn資材を施用することにより,樹体内のMn含量が増加した。それにより,果実のエチレン生成が抑制され樹上軟化の発生が減少した。7月下旬以降の多孔質マルチの土壌全面被覆により,土壌水分の変化が少なくなり,果実のエチレン発生が抑えられ,樹上軟化発生が抑制される傾向がみられた。3. 耐凍性の系統間評価と貯蔵養分増加対策 ‘西条’の1年生枝と芽における耐凍性と炭水化物および非タンニンフラバン(主としてアントシアニン)含量との関係を調査するとともに,樹勢強化対策としての着果管理法について検討した。生育が良好な“遠藤”系や“出雲型”系統は,生育が不良な“安部”系に対し,萌芽前の1年生枝中全糖含量や芽中ブドウ糖含量が有意に高かった。また,芽および1年生枝皮層部における非タンニンフラバン(主としてアントシアニン)含量は,“安部”系が“遠藤”系に対し少ない傾向が認められた。3月中旬に芽および1年生枝を-3℃および-6℃に遭遇させたときの電解質漏出率は,“安部”系が他の2系統より有意に高く,他の2系統に対し耐凍性が劣った。“安部”系の発芽不良症状は,芽や枝の耐凍性が低いことによって,早春季に低温害を被ることで発生するものと考えられた。したがって,発芽不良症状の予防には,強摘蕾によって着果制限を徹底することにより,貯蔵炭水化物や非タンニンフラバン(アントシアニン)含量を増やし,耐凍性を高めることが有効であると考えられた。貯蔵炭水化物含量を増加させることによる,樹体の耐凍性向上を主目的として,摘蕾摘果方法の違いが,貯蔵炭水化物含量,果実品質および収量に及ぼす影響について検討した。母枝10 cm当たり1蕾の基準で摘蕾する強摘蕾弱摘果と,摘蕾不足を想定した弱摘蕾強摘果および摘果不足を想定した普通摘蕾弱摘果並びに普通摘蕾中摘果(慣行)を比較した。細根中貯蔵炭水化物含量は,弱摘蕾強摘果が著しく劣り,翌年への影響が大きかった。平均果重および果実中可溶性固形物含量は,強摘蕾弱摘果が最も優れた。以上のことから,強摘蕾による着果制限は貯蔵炭水化物含量増加,果実品質向上に効果的であると考えられた。4. 優良系統への効果的高接ぎ更新方法 既存系統から優良系統への更新期間を短縮する方法について検討した。早生系‘西条’を供試し,各主枝の主幹分岐部から約50 cm上部2か所に,更新系統の穂木を腹接ぎした。新系統主枝の早期拡張と旧系統主枝の収量および果実品質向上を目的として,腹接ぎ直上部へ0.8~1.0 cm幅で環状はく皮またははく皮逆接ぎを行った。穂木からの新梢伸長は,環状はく皮とはく皮逆接ぎ処理により促進した。接ぎ木2年後の主枝延長拡大率は,環状はく皮とはく皮逆接ぎ処理区では70~80%であり,無処理区より20~30%優れた。穂木からの新梢伸長促進効果を目的とする場合,はく皮処理時期は開花期頃(6月上旬)までが適当と考えられた。

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