私的カフェ論その5

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タイトル別名
  • シテキ カフェロン ソノ 5
  • Shiteki kaferon sono 5
  • My personal essay on cafe part 5

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抄録

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2007年8月, 大庄経営の「日本海庄や」で入社5ヶ月目の新卒男子が急性左心機能不全で亡くなり, 過労死として労災認定された。両親は, 長時間労働を死亡原因として, 会社に対し不法行為または債務不履行(安全配慮義務違反)に基づき, 役員4名に対しては不法行為または役員等の第三者に対する損害賠償責任に基づき, 逸失利益等の損害賠償を請求した。地裁, 高裁とも遺族の訴えを認め, 会社と役員に損害賠償金の支払いを命じたが, 会社側は最高裁に上告。2013年9月, 最高裁は会社側の上告を退けた。その後, 高裁で和解が成立。過労死損害賠償請求裁判で, 初めて大企業の役員の個人責任が認められた。この判決における労働時間の範囲, 業務と死亡の因果関係, 会社および役員の責任を概観する。 新卒・新人募集要項の初任給の金額には時間外労働80時間が含まれていたが, その旨開示されず, これは一種の詐欺的行為であり, 過重労働(三六協定に定めた1ヶ月45時間の時間外労働を恒常的に超える時間外労働を行う情況)の常態化と表裏一体の関係にある。同業他社等でも同様の三六協定が結ばれていると主張しているから, 大庄では過大な時間外労働の常態化は役員にとって自明の事実であったと解される。 労災規定の現行認定基準が発出される以前から「過重労働と心臓疾患との関係」については一般社会が認識しており, 著名な訴訟事件につき両者の関係を認める判例も積み重ねられ, 報道されてきた。これらを踏まえたうえで現行認定基準が発出され, 本件事故の発生まで5年以上が経過し, その内容は控訴人会社にとっても十分認識可能な状況であった。使用者は, 労働契約に伴い安全配慮義務があるから, 現行認定基準も考慮にいれて, 社員の長時間労働を抑制する措置をとることが要請されており, 社員が長時間労働を行っていることを認識していた(あるいは極めて容易に認識可能であった)にもかかわらず, 長時間労働による災害から労働者を守るための適切な措置をとらないことによって災害が発生すれば, 安全配慮義務に違反したと評価されることは当然であり, 災害発生の予見可能性はあったと考えるべきである。判決における, この論理と結論は適切なものである。 取締役らの責任についても, 従業員の多数が長時間労働に従事していることを認識していた(あるいは極めて容易に認識可能であった)にもかかわらず, 会社にこれを放置させ是正するための措置をとらせていなかったことをもって善管注意義務違反があると判断。不法行為責任についても同断であるとした。取締役に長時間勤務による過重労働を抑制する措置をとる義務があることは明らかであり, この義務懈怠において悪意または重過失が認められる。なお, 不法行為責任についても同断であるとした。判決における, これらの論理と結論は適切なものと言える。

論文

収録刊行物

  • 三田商学研究

    三田商学研究 60 (3), 39-58, 2017-08

    慶應義塾大学出版会

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