クリーン・サープラス関係と複式簿記

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タイトル別名
  • クリーン・サープラス カンケイ ト フクシキ ボキ
  • Kurin sapurasu kankei to fukushiki boki
  • Clean surplus and double-entry bookkeeping

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抄録

type:text

今日の企業会計においては, 複式簿記を用いて貸借対照表と損益計算書とが作成されている。そして, この複式簿記を用いて記録を行う場合, ある勘定に記帳を行った際には, 必ず相手勘定の記帳が必要になる。 例えば, 資産や負債の簿価が変動した際には, ①資産または負債, ②資本, あるいは③収益または費用のいずれかが, 相手勘定として記帳される。このことは, 資産や負債の簿価変動の一部が, 収益や費用の金額, 延いては利益の金額に影響することを意味している。一方, 収益や費用が記帳された場合にも相手勘定は記帳される。その際の相手勘定は基本的に資産または負債となる。そして, 資産や負債の記帳はその簿価に変動をもたらす。 これらのことから, 資産や負債の簿価決定は利益計算の結果に影響を与え, 反対に, 利益計算の結果は資産または負債の簿価に影響を与える。このような, 利益計算と資産や負債の簿価との相互関係は, 複式簿記という記録方法の大きな特徴といえる。 しかし, 当該相互関係は次のような問題を孕む。即ち, 仮に望ましい資産や負債の簿価と, 望ましい利益の姿とがともに捕捉されている場合, 両者を両立させられない虞があるのである。より具体的には, 資産や負債の簿価の決定を望ましいものにした結果, 計算された利益が望ましいと考えられている利益と乖離してしまったり, 逆に, 利益計算を望ましいものにした結果, 決定された資産や負債の簿価が望ましいと考えられているそれらの簿価と乖離してしまったりする虞がある。 そして, 現在の日本においても, 両者の両立が図り難くなってきているようである。こうした状況において, 現行の日本では, 「その他の包括利益」と「リサイクリング」という2つの道具を用いて, 両者の両立が図られているといわれる。 ここでの両立の方法は, 決して複式簿記による記録を放棄するというものではない。先に述べた通り, 利益計算と資産や負債の簿価決定とが相互に影響するというのが複式簿記の特徴である。そして, この特徴が「望ましい資産や負債の簿価」と「望ましい利益」との両立を難しくしている。そして現実に当該両立が難しくなった状況下で, 複式簿記を放棄せずに, 当該両立を図る。これが日本基準において採用された方法といえる。では当該両立は, 複式簿記という記録方法の下でどのようになされているのだろうか。 先ず第2章において, その他の包括利益が登場するまでの経緯をまとめる。次いで, 第3章において, 複式簿記とリサイクリングとの関係について論じた池田幸典の論攷を参考にしつつ, 複式簿記における資産や負債の簿価決定と利益計算との関係を考える。最後に第4章において, 2組のクリーン・サープラス関係についても言及する。 Balance sheet and income statement are based on records by double-entry bookkeeping. According to double-entry bookkeeping, decision of book values and calculation of profit are influence each other. In this paper, "other comprehensive income" is regarded as the way how we decide book values and calculate profit independently of each other, keeping the relation of clean surplus. And in this paper, we discuss how "other comprehensive income" acts in decision of book values and calculation of profit. And we discuss the meanings of clean surplus.

研究ノート

収録刊行物

  • 三田商学研究

    三田商学研究 60 (4), 67-79, 2017-10

    慶應義塾大学出版会

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