春の日を愛でる言葉「菅の根」: 『万葉集』における動詞「こひわたる」と助詞「を」の働きに関する一考察

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  • ハル ノ ヒ オ メデル コトバ 「 スガ ノ ネ 」 『 マンヨウシュウ 』 ニ オケル ドウシ 「 コヒワタル 」 ト ジョシ 「 オ 」 ノ ハタラキ ニ カンスル イチ コウサツ

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『万葉集』に見られる以下の和歌をフランス語に翻訳することを試みた際、動詞表現「孤悲わたる」の部分に関して問題が生じた。  おほほしく 君を相見て 菅の根の 長き春日を 孤悲わたるかも (10-1921) 「孤悲わたる」は「こふ」と「わたる」が合わさってできた複合動詞である。「孤悲わたる」の直前の助詞「を」は時間的状況を表し、「君を」恋して「日を」過ごすという意味に解釈される。つまり、日本語では「こふ」の対象である「君」は言外に示されている。一方、フランス語では「こふ」に当たる動詞は他動詞であり、必ずその目的補語を明示しなければならない。従って、この和歌をフランス語に翻訳しようとすると、代名詞「君」を動詞「こふ」の前に置くことで「君」が繰り返され、詩は平凡なものになってしまう。本考察では、より詩的な翻訳を試みて、「恋ひ暮らす」「思ひ暮らす」などを含む『万葉集』中の類似した例を三つとり上げ、それぞれの原文を三種類の現代語訳(中西進訳、1978年~1983年、小学館版の訳、1971年~1975年、折口信夫訳、1916年)を参照しつつ吟味した。こうした検討を経て、最終的に、詩的な観点からひとつのフランス語訳を導き出した。

identifier:京都工芸繊維大学 学術報告書,第8巻,2016.03,pp.1-14

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