コジェーヴーシュトラウス論争において『ユリアヌス帝とその著述技法』が持つ意義 -著述技法及び無神論をめぐって-

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  • 坂井, 礼文
    京都大学大学院 人間・環境学研究科 共生人間学専攻

書誌事項

タイトル別名
  • Signification de la thèse de Kojève sur l'Empereur Julien et ses éclaircissements apportés au débat Kojève-Strauss autour de l'art d'écrire et de l'athéisme
  • コジェーヴ-シュトラウス ロンソウ ニ オイテ 『 ユリアヌステイ ト ソノ チョジュツ ギホウ 』 ガ モツ イギ : チョジュツ ギホウ オヨビ ムシンロン オ メグッテ

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抄録

本稿では, アレクサンドル・コジェーヴとレオ・シュトラウスの論争の内容を理解するうえで重要な意義を持つと思われる, コジェーヴの『ユリアヌス帝とその著述技法』を中心に取り扱う. コジェーヴの読解法に影響を与えたシュトラウスによれば, 従来は口頭による伝承の形で自らの思考を伝えていた古代の著述家たちは, 迫害を逃れるべく, 敢えて本心を包み隠しながら書こうとする傾向があった. したがって, 現在の読者たちは古代の著作を読み解く際に, 行間を読みながら, 注意深く著者の真意を探る必要がある. コジェーヴは, このような古代の秘教的著述技法をユリアヌスも用いていたと仮定し, その著作を読み進めるうちに, 異教徒とされてきたこのローマ皇帝が実は無神論者であったことを発見する. これまで指摘されてこなかったが, この発見は有神論者のシュトラウスに対する挑戦に他ならなかったと解釈され得る. 以下で, コジェーヴの議論の背景にある, 彼とシュトラウスとの間で行われた論争を, 無神論的立場と有神論的見解の対立であると解釈しつつ, その発見の内容を分析する. その際に, 二人の哲学者がそれぞれ無神論者及び有神論者であったという事実が, 彼らの知を愛する仕方にも相違をもたらしたことを明らかにすることで, 彼らの根源的な対立項を浮かび上がらせる. 他方で, 彼らは実証主義的及び解釈学的文献学に対抗するような秘教的著述技法を意識した読解法の有用性に関しては同調したが, それがもたらすのは, 古典研究の新しい地平を切り開く可能性である. そもそも, コジエーヴはシュトラウスと知り合う前から, このような読解術を心得ており, その特異なへーゲル読解においても, それを十全に意識していたように思われる.

収録刊行物

  • 人間・環境学

    人間・環境学 22 1-18, 2013-12-20

    京都大学大学院人間・環境学研究科

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