M&Aと企業の境界の理論 : 一般化された取引コスト理論に向けて

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タイトル別名
  • M&A and Theories of the Boundaries of the Firm: Toward a Generalized Transaction Cost Theory

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抄録

・ M&Aやスピンオフは、企業の境界を変更する行為である。買収・統合によって企業は外部の事業を取り込んで境界を外に拡大し、売却やスピンオフによって企業は内部の事業を外に切り出して境界を縮小する。一般に、買収・統合を行う理由については何らかのシナジーの存在が指摘されることが多い。しかし、分離した事業が独立企業となるスピンオフがなぜ価値を創造するかについては、理論的に必ずしも十分に解明されていない。買収・統合とスピンオフとは経営資源を結合するか分離するかという対称的な取引であるから、そのメリット・デメリットについても対称的な説明ができるはずである。・ 本稿では、ロナルド・コースの1937年の論文に始まる企業の境界の理論、特に取引コスト理論の発展をレビューした上で、その延長線上で買収・統合(シナジー)とスピンオフを統一的に説明できるような「一般化された取引コスト理論」の方向性を考える。本稿で展開した初期的なフレームワークは、取引コスト理論の成果を踏まえつつ、基本的に「経営者の限界生産力逓減」というコースのオリジナルの考えに則ったものである。・ 本稿で検討した一般化された取引コストモデルには、以下の特徴がある。(1)取引コストを理想条件下のファーストベストとの差額と定義したこと、(2)企業を経営キャパシティが経営資源を管理する存在として捉えるリソース・ベースト・ビューの枠組みを導入したこと、(3)企業内取引の場合、市場取引と異なり、取引(リンク)とともに取引に紐づけされた事業部門が企業内に取り込まれる結果、企業内取引コストにはリンク管理コストに加えて組織管理コストが含まれること、(4)経営キャパシティはリンク管理コストの制約要因とはならないが、組織管理コストの制約要因となること。・ 本稿の分析は、価値最大化のためにはどうすべきかという規範的なものであるが、現実には経営キャパシティを超えて「補給線が伸びきった」状況の企業も多数存在すると思われる。企業が将来に向けて価値創造的で質の高い持続的成長を目指すためには、まず、自社の経営キャパシティと事業ポートフォリオを取引コストの観点から意識的に見直してみることが必要であろう。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1050569015562842496
  • NII論文ID
    120006809300
  • NII書誌ID
    AA1285312X
  • HANDLE
    10086/31004
  • 本文言語コード
    ja
  • 資料種別
    journal article
  • データソース種別
    • IRDB
    • CiNii Articles

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