多角化と経営キャパシティ : 一般化された取引コスト理論の観点から
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- 田村, 俊夫
- 一橋大学
書誌事項
- タイトル別名
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- Diversification and Managerial Capacity: a Generalized Transaction Cost Approach
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抄録
・ 近年、欧米多角化企業は、大胆なスピンオフや事業売却を織り交ぜながら事業ポートフォリオの変革を推進しているが、日本企業の事業ポートフォリオ見直しは概して未だ大胆さに欠けているように思われる。しかし、なぜ多角化企業の事業ポートフォリオの見直しが必要なのであろうか。その根本的な要因の解明は、どのように事業ポートフォリオを見直すかの指針を提供してくれるであろう。・ 本稿の目的は、「一般化された取引コスト理論」のフレームワークに基づき、多角化のもたらす複雑さの増大が経営キャパシティの処理能力を超えると企業内取引コストが増大して、多角化の非効率性が業績や株価を引き下げるという分析的な視座を提示することである。・ 多角化によるシナジーは見えやすいが、多角化が増大させる企業内取引コスト中の組織管理コストは目に見えにくい。組織管理コストの増大は、本社費・間接費の肥大化、ROICの低迷、成長の鈍化、株価のディスカウントといった目に見えるコストの原因となっているが、それが特定事業部門だけでなく全社的に広がっていることを見落とすと、事業分離のコスト・ベネフィット分析が歪んでしまう。・ 本稿では、このような見えにくい組織管理コストを可視化する分析フレームワークとして、経営課題の「複雑さ(Complexity)」を「経営キャパシティ(Capacity)」で割った「CCレシオ」の概念を提示するとともに、複雑さと経営キャパシティの各々に影響を与える要因を考察した。複雑さは、事業管理スパンが増えるほど、事業の異質性が高いほど、環境変化が大きいほど、競合の強度が強いほど増大する。経営キャパシティは経営者の能力と経営インフラに大きく左右される。・ 経営キャパシティへの負荷が過大になるような買収や多角化は、当該事業のみならず他の事業の競争力まで削いでしまいかねない。社会から負託された経営資源を最大限に活用する「事業本位制」の観点からは、企業は経営キャパシティの増大に努めるとともに、CCレシオの観点から事業ポートフォリオの見直しを常に行っていくべきである。現代の発達した資本市場では、そのような自主的な見直しを怠ると、アクティビストを含む株主からの圧力を招くことになるであろう。
収録刊行物
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- 資本市場リサーチ
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資本市場リサーチ 54 145-195, 2020-01
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キーワード
詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1050569015577335552
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- NII論文ID
- 120006809298
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- NII書誌ID
- AA1285312X
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- HANDLE
- 10086/31002
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- 本文言語コード
- ja
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- 資料種別
- journal article
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- データソース種別
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- IRDB
- CiNii Articles