全体主義と『アサイラム』 ―E・ゴフマンを強制収容所と全体主義社会の主題に導く四つの繋がり―

書誌事項

タイトル別名
  • Totalitarianism and Asylums : On Four Paths Leading Erving Goffman to the Theme of Concentration Camp and Totalitarian Society
  • ゼンタイ シュギ ト 『 アサイラム 』 : E ・ ゴフマン オ キョウセイ シュウヨウジョ ト ゼンタイ シュギ シャカイ ノ シュダイ ニ ミチビク ヨッツ ノ ツナガリ

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抄録

本論考は、アーヴィング・ゴフマンの著書『アサイラム』をそれが執筆された歴史的文脈および彼の個人的文脈に置いて考察する試みである。これまで『アサイラム』は精神病院のエスノグラフィー的研究と見なされることが多かったが、タイトルが表しているように、それは「収容所」の比較研究と見なされるべきである。では、なぜゴフマンが収容所すなわち隔離収容施設に関心をもつようになったのか。著者は、ゴフマンを強制収容所と全体主義社会の主題に導いた四つの繋がりがあったと想定している。第一に、E・ゴフマンがユダヤ人移民二世であったという事実から、第二次世界大戦終結直後に明るみに出た強制収容所・絶滅収容所におけるユダヤ人に対するナチの残虐行為に彼が衝撃を受けたことが示唆される。第二に、シカゴ大学におけるブルーノ・ベッテルハイムの存在がゴフマンに強制収容所への関心を喚起した可能性がある。ベッテルハイムはナチ当局によって二つの強制収容所に移送され虐待を受けた経験があるが、渡米後自らの経験に基づく論文を発表して、シカゴ大学の教授陣に加わった。第三に、ゴフマンの師エヴァレット・C・ヒューズがナチ・ドイツに特別の関心を抱いていた。ヒューズは「全体主義的施設」の概念を考案し、論文「善良な国民と汚れ仕事」を書いている。第四に、ゴフマンが愛読し、しばしば引用もしているジョージ・オーウェルは『一九八四年』で「全体主義社会」の日常生活をなまなましく描写しているが、これがゴフマンに「全体主義的施設」の具体的なイメージを提供した可能性がある。

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