St. Martin’s Eve における「障がい」、ペアレントフッド、シスター/ブラザーフッド

書誌事項

タイトル別名
  • Disability, Parenthood, and Sister/Brotherhood in St. Martin’s Eve
  • St. Martin’s Eve ニオケル ショウガイ ペアレントフッド シスター ブラザーフッド

この論文をさがす

抄録

application/pdf

本稿は、Mrs Henry Wood のSt. Martin’s Eve(1866)を「障がい」を持つ登場人物の親としての役割を探る小説として読む。本稿の分析対象の精神的「障がい」(狂気)を持つシャーロットと身体的「障がい」を持つアイザックは、実の親、義理の親、代理の親など様々な形の親の役割を経験する。また、彼女たちの親としての役割は同性の登場人物達との「親密な」関係の上に成り立っている。これらの分析を通して、本稿は、St. Martin’s Eve が「障がい者」のペアレントフッドに関する当時の言説に疑問を投げかけていることを明らかにする。第1 節は、本作品が出版されたヴィクトリア朝中期の「障がい」とペアレントフッドを巡る言説を分析する。医療によるスティグマ化と労働からの排除は、「障がい者」にネガティブなイメージを負わせ、あらゆる人間関係から疎外されているイメージを作り上げた。実際、文学にでてくる「障がい者」は孤独として描かれることが多く、特に、結婚をせず、子供も持たないことがステレオタイプ化した。シャーロットとアイザックにもそれらの特徴が与えられており、彼女たちが「障がい者」として描かれていることが強調されている。第2 節は、シャーロットとアイザックのペアレントフッドの表象を考察する。本作品は、シャーロットとアイザックが自身の「障がい」のために親としての役割を十分に果たせないことを描いている。しかし、シャーロットのマザーフッドは子供への愛情と情熱を抑えようとする努力によって、アイザックのファザーフッドは紳士階級の影響力を持って他の多くの登場人物の「代理」父になることによって特徴づけられていると言える。第3 節は、シャーロットが持つシスターフッド、アイザックが持つブラザーフッドが、それぞれ彼女たちのマザーフッドとファザーフッドの実現を手助けしていることを論じる。シャーロットとミセス・ダーリング、プランスの間で構成されるシスターフッドは、シャーロットの「障がい」を隠し、彼女の母親としての役割を維持させることを目的とする。アイザックとフレデリック、ミスター・ピム、司祭で構成されるブラザーフッドは、シャーロットの「障がい」を暴き、アイザックの父親としての失敗を隠すこと、そして彼の父親としての役割を維持させることを目的とする。シャーロットとアイザックの意志が考慮されずに物事が動いている点には「障がい者」に対するステレオタイプ的な態度が見られるが、「非障がい者」の登場人物たちが同性の絆に基づいて「障がい者」のペアレントフッドを支えている点は注目に値する。St. Martin’s Eve は、「障がい者」のペアレントフッドが実現する可能性と家族のオルタナティブな形を提示する。ヴィクトリア朝の社会では、親子や家族の形態が柔軟で拡張性があったことを読み取ることができる点で本作品は実験的であると言える。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ