社外取締役増員は企業パフォーマンスに影響を及ぼすのか

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抄録

会社法は、令和元年改正により上場会社等に対して、少なくとも1名の社外取締役の設置を義務付けている。社外取締役の資格としては、就任時及び就任前の10年間において、当該会社の業務を執行していた者からの独立性を求めている。また、東京証券取引所は、有価証券上場規程の別添にあるコーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」と略称)において、その実効性を確保する。CGコードは平成27年6月に施行され、平成30年6月の改訂を経た上で、直近では令和3年6月に東京証券取引市場の再編に合わせた2度目の改訂が行われた。CGコードはComply-or-explain方式が採用されているが、間接的には投資家からの圧力がかかっている。直近改訂の中では、原則4-8の「独立社外取締役の有効な活用」が注目され、いよいよプライム市場上場会社では一定の資質を十分に備えた独立社外取締役を、少なくても3分の1以上選任すべきことが行動原則として求められるようになった。  今後はその増員により社外取締役の存在感が一気に増して、取締役会の構成に少なからず変化を生じさせていくことが見込まれている。取締役会に求められる監督と執行とが明確に分離するといった予測もできるが、わが国では社外取締役の普及がこれまでに十分進んでこなかった背景もあるため、急速な増員の要求に対しては、ひとまず形式的に応えるだけになるのではないかといった懸念もある。そこで本研究では、今回改訂を見据えた短期間での社外取締役の増員が、取締役会の構成に対していかに影響を及ぼしているか、また取締役会の新たな構成が上場企業のパフォーマンスに対していかに影響を及ぼすのかを分析した。  ところで直近改訂では、取締役会の構成について性別多様性などを取り入れるべきことが記されるようになった。性別多様性に関しては、わが国の女性役員比率はいまだ低く、重要な課題となっている。直近改訂が両者ともに求めることからすれば、現在再構成されつつある取締役会では、社外取締役の増員と女性役員比率の向上とが同時に起きているものと想定される。両者は互いに補完し合うべき関係にあるが、社外取締役の浸透が諸外国に比して遅れたわが国では、社外取締役の増員と女性役員比率の向上とが特に強い結びつきを持つのではないかと考えられる。そこで本研究では、社外取締役比率を3分の1以上とする企業について、女性役員比率に及ぼす影響についても検証した。  分析の結果は資産活用率を表すSA ratioについて社外取締役比率が3分の1以上となる企業において低下するという事実が明らかになった。このことは社外取締役比率が3分の1以上となる企業はそれに満たない企業に比し、エージェンシー問題が発生しているということになる。このことは社外取締役比率を3分の1以上とする企業ではガバナンスが強化されているどころか、まったく逆のことが起きていることとなる。次に社外取締役比率が3分の1以上となる企業かそれ未満かに関わらず、企業パフォーマンスに及ぼす影響は看守されないことが明らかとなった。この結果は先行研究である松本[2019,pp.77-79]の知見を踏襲する。そして最後に社外取締役比率が3分の1以上となる企業においては、当該比率が3分の1未満となる企業に比し女性役員比率が高いことが明らかとなった。これは社外取締役も女性役員も共にガバナンス強化のツールとして認識されていることを表すと解した。  このことの含意として令和4年4月のCGコード改訂前のデータを用いて分析を行った本研究では、コード改訂に先行して社外取締役比率を3分の1以上とした企業では女性役員比率が高い傾向を有する事実が明確になったことが挙げられる。つまりコード改訂と共に女性を活用する近時の政策より影響を受け、社外取締役の設置が女性によって実現しているケースも少なくないのではないかと予想される。いずれにしても社外取締役の増加と女性活用が共に進展しているようではあるが、企業価値に影響を及ぼさないとすればそれらの採用は形式的で実質を伴わないと断ずるべきなのか、或いはそもそもそれらの採用は企業価値に影響を及ぼさないものなのかについての検討も今後、併せて行う必要があるだろう。  最後に残された課題に言及しておく。社外取締役比率を3分の1とする企業のPSを算出するために本研究で採用した二項ロジスティック回帰モデルについて再検討の必要がある。今回はガバナンス変数由来の共変量からのみモデルを構築したため、今後は財務数値や業種ダミー等をモデルに投入することで分析モデルの説明力を高められる可能性がある。そしてその様な作業により、2群間の情報背景の差異をさらに縮小させることで、今回の分析で発見できなかった因果効果を識別するべく、見直しを行いたいと考えている。また、本分析では単年度の社外取締役増員による企業パフォーマンスへの影響を検討したが、利益率の平均回帰を踏まえて複数年の平均指標を採用した。しかし社外取締役の役割として企業の持続的な成長を促し中長期的な企業価値を向上させるとするCGコードの原則4-7を踏まえると、時系列による分析の方途が考えられる。本研究がPSMという分析手法に拘ったために従属変数を複数年の平均値を採用することで一定程度、その様な忠告に対して対応したと考えているが、これらの問題は今後の残された課題としたい。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1050578514828415104
  • HANDLE
    2115/90203
  • 本文言語コード
    ja
  • 資料種別
    departmental bulletin paper
  • データソース種別
    • IRDB

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