モンゴル馬の騎乗馴致にみられる馴れの獲得とストレス値変動の比較

書誌事項

タイトル別名
  • Comparison of the Acquisition of Riding Habituation and Stress during Training in Mongolian Horses
  • モンゴルウマ ノ キジョウ ジュンチ ニ ミラレル ナレ ノ カクトク ト ストレスチ ヘンドウ ノ ヒカク

この論文をさがす

抄録

本研究は未馴致馬を対象とし,その騎乗馴致中のストレス変化を,ノルアドレナリン分泌に相関する神経系ストレスマーカーである,唾液中の α-アミラーゼを計測することで,トレーナーが馬の騎乗馴化を認識した時点(馴致終了時)と,神経系ストレスマーカーとなる唾液中 α-アミラーゼ濃度の変動との連関を比較考察した。対象馬は,モンゴル国トゥブ県の遊牧民が飼育するモンゴル馬,3~5歳の未調教セン馬 7頭を用いた。本騎乗馴致は,遊牧民が馬の飼育管理を行う上で,日常的に行われる騎乗馴致を参与観察しながら計測した。騎乗馴致を行うトレーナーは 26歳と28歳の兄弟で,共に 6歳から父親に馬の飼育管理全般を習得してきたことから馴致技術の差は僅少であり,また1頭の個体に対し馴致騎乗を交互に行ったため,技術差の及ぼす影響は個体間において最小限に抑えられていると判断できた。  年間放牧されている帰属馬群から捕獲竿で捕獲後,ハミ,引き綱及び手綱付き頭絡,鐙付き乗用鞍が装着され,平坦な放牧地で馬具や人の指示を理解させる目的とする約 30 分の騎乗と,馬繋ぎ場“ウヤー”での繋留を交互に行い,騎乗以外の時間は馬繋ぎ場に繋留された。騎乗直前から騎乗後を 1回のパフォーマンスとし,これを午前1回,午後 1回,2~3日間で 3回~5回行ったが,馬により回数は異なっていた。また,トレーナーより馴致が困難であると判断された個体には,繋留時に肢枷が装着された。  肢枷を装着する必要がなく比較的スムーズに馴致騎乗が行われたグループの 4頭については,初回騎乗馴致直前に比較し,最終騎乗馴致直後の α-アミラーゼ平均濃度が減少していた(p<0.01)。一方,肢枷の装着が必要であると判断されたグループの 3 頭については,初回騎乗馴致直前と,最終騎乗馴致直後における αアミラーゼ平均濃度の差は認められなかった。  また,各馴致段階における,騎乗前と騎乗直後の α-アミラーゼ濃度については,肢枷の無いグループは 2回目に騎乗直後の α-アミラーゼ濃度の平均値が騎乗直前の α-アミラーゼ濃度に比較し有意に高かったのに対し(p<0.05),3回目あるいは 4回目(最終回)では,騎乗直前と直後の α-アミラーゼ濃度の平均値に差が認められなかった。一方,馴致途中で肢枷を必要と判断されたグループでは,騎乗前後の α-アミラーゼ濃度差の平均値は 3 回目に有意差が認められたが(p<0.05),4 回目あるいは 5 回目の直前に肢枷を装着して繋留され,着脱後に騎乗馴致が行われた。肢枷装着経験後の騎乗前と騎乗後の α-アミラーゼ濃度では,騎乗後の濃度が減少する傾向にあったが有意な差は認められなかった。  トレーナーは指示に従う行動の手応えから「十分な馴化」(肢枷無し)の獲得,あるいは「馴化には不十分であるが初期馴致としてはそれなりの手応え」(肢枷有り)を判断した時点で馴致を終了させていた。その終了時点はいずれも騎乗前後に有意差のあるストレス負荷が掛かった段階を経て,騎乗後の α-アミラーゼ濃度が減少する時点と概ね一致していると認識できた。また,調査ではトレーナーらが馴致の過程で,馴化しにくい個体に対し拘束効果を用いた肢枷装着を行う事例が確認できた。

論文

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ