『徒然草鉄槌』の注釈態度

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  • The Method of Tsurezuregusa Tettsui as a Commentary

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抄録

『徒然草鉄槌』は、青木宗胡が著したとされ、一六四八年に刊行された『徒然草』の注釈書である。江戸時代に書かれた数々の『徒然草』の注釈書の中でも、重要な位置を占めている。 『徒然草』に関する最初の注釈書は、『徒然草寿命院抄』である。秦宗巴が著し、一六〇四年に刊行された。次いで、林羅山が一六二一年に著した『野槌』となる。 この二つに次ぐ三番目の注釈書が、『徒然草鉄槌』である。その後、挿絵付きの注釈書としては、松永貞徳の『なぐさみ草』(一六五二年刊)や、著者未詳の『徒然草吟和抄』(一六九〇年刊)、苗村丈伯の『徒然草絵抄』(一六九一年刊)なども登場した。『徒然草絵抄』には、語釈がなく、挿絵のみで『徒然草』の各段の説明が試みられている。このように、『徒然草』の注釈書は、多彩な展開を見せた。 その後、各務支考は、それまでの注釈書の概念を越える、長編評論として、『つれづれの讃』(一七一一年自跋)を著した。 以上に挙げた注釈書については、これまでの拙稿で取り上げて、考察してきたが、初期の注釈書に属する『徒然草鉄槌』の考察は行ってこなかった。そこで今回は、『徒然草鉄槌』を中心に据えて、『徒然草鉄槌』がどのような特徴を持ち、その前後に刊行された『徒然草』の注釈書群と、どのような関係性を持っているのか、これまで拙稿で論じてきた各種の注釈書とも関連させながら、考察することとした。 考察は、次の三点から行う。第一に、『徒然草鉄槌』と、それ以前の二つの注釈書を比較し、『徒然草鉄槌』は『野槌』の抜き書きであると言われてきた通説を検証する。そして、『徒然草鉄槌』が『野槌』よりも、むしろ『徒然草寿命院抄』を参照することが多いことを確認できたので、そこから『徒然草鉄槌』の注釈態度を明らかにした。 第二に、『なぐさみ草』と、『徒然草増補鉄槌』(山岡元隣著、一六六九年刊)とを取り上げて、『徒然草鉄槌』の影響力を考察した。 第三に、歌人であり、国学者である契沖(一六四〇〜一七〇一)が、『徒然草鉄槌』に書き込んだ「契沖書き入れ」(成立時期は一六九〇年以前とされる)を検討し、契沖が『徒然草鉄槌』を通して、『徒然草』をどのように読解したか、特に、契沖による独自の解釈箇所に注目した。 『徒然草鉄槌』は、刊行年度の異なる刊本の種類も多く、江戸時代に広く流布した『徒然草』の注釈書であった。本稿では、その人気の理由の一端を、解き明かしたい。

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