人間家族の起源:類人猿社会との比較から
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- 伊谷, 原一
- 京都大学野生動物研究センター
書誌事項
- タイトル別名
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- Origin of the human family: Comparison with ape societies
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説明
ヒトは地球上に現生する300種あまりの霊長類の一員である。私たちは多くの形態的・生理的特徴をさまざまな霊長類と共有している。また, 私たちが示す行動においても他の霊長類と共通する点は数多く見られるし, 社会的特徴も例外ではない。つまり, 人間が有する諸特徴は, 私たちが霊長類として歩んできた進化の産物なのである。しかし、すべての霊長類の中で「家族」という社会単位を有するのは人間だけである。ヒトに最も近縁とされる猿人類でさえ, その社会に「家族」という社会単位を認めることはできないのである。1974年, 人類学者の D. ヨハンソンと T. ホワイトはエチオピアのハダールで約375万年前のヒト科化石・アウストラロピテクス アファレンシスを発見した。この化石は人類の直系祖先と位置付けられ, さらに同じ遺跡から子供を含む男女13個体分の化石が出土したことから「最初の家族」と名付けられた。また、社会人類学者の G. マードック(1978)は, 性, 生殖, 教育, 経済が人間の社会生活の基礎となり, それらの機能を果たしうる社会単位は「家族」しかないことを指摘した。にんげんだけに特異的で, おそらくほとんどすべての人間社会に普遍的にみられるこの「家族」という社会単位はどのようにして誕生したのだろうか? 残念ながら身体の形態的特徴や石器と異なり, 生活様式や行動パターン, そして社会などは化石として残らない。それらを復元し「家族」という社会単位が派生した過程をたどるためには, 最も近い過去にヒトと共有の祖先から進化してきた現生類人猿の諸特徴と比較するしかない。日本の人類学の祖である故 今西錦司(1951)は, 人間家族の成立を考察するうえで, (1)近親婚の禁忌, (2)外婚制, (3)近隣関係, (4)配偶者間のぶんぎょうという4つの条件を提示した。果たして, 現生する類人猿たちに今西の提示した4か条の片鱗は見られるのだろうか? 本講演では, 家族愛に迫る前段階として, 人間だけが有する「家族」という最小社会単位の誕生について考えてみたい。
収録刊行物
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- 思春期青年期精神医学
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思春期青年期精神医学 22 (2), 81-93, 2013
岩崎学術出版社
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1050845760782137216
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- NII論文ID
- 120006373912
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- NII書誌ID
- AN1036493X
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- ISSN
- 09173307
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- HANDLE
- 2433/228309
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- 本文言語コード
- ja
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- 資料種別
- journal article
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- データソース種別
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- IRDB
- CiNii Articles