なぜCGSガイドラインとCGコードは改訂されたのか ―コーポレートガバナンス上の不祥事に関する判例から明らかとなった原因―

書誌事項

タイトル別名
  • Why were the CGS Guideline and the CG code Revised? : Causes Clarified from Precedents on Corporate Governance Scandals
  • ナゼ CGS ガイドライン ト CG コード ワ カイテイ サレタ ノ カ : コーポレートガバナンス ジョウ ノ フショウジ ニ カンスル ハンレイ カラ アキラカ ト ナッタ ゲンイン

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抄録

本稿の目的は2つある。第1に,コーポレートガバナンス改革に関する法務省・経済産業省・東京証券取引所・金融庁の検討会において取り上げられた判例の原因を指摘することである。第2 に,その原因を解決するためにCGSガイドラインとCGコードがどのように改訂されたかを明示することである。 改訂のための検討会で指摘された8件の判例は,取締役の善管注意義務違反や忠実義務違反について問われたものであるとわかった。判例の原因は,企業が取締役の機能や職務権限を明確に定めていないことにあった。また,取締役の活用が客観的に妥当とされるかどうかという点も考慮して進められていなかった。 判例の原因を受けて,CGSガイドラインとCGコードでは次のように改訂がなされた。改訂CGSガイドラインでは,4点が改善された。第1に,他社の企業価値向上に貢献する事例が蓄積される等のロールモデルの収集をすることである。第2に,実際の経営経験を持つ人材獲得の拡充をすることである。第3に,監督等の具体的にワークした事項の機能を認識することである。第4に,後継者候補の選抜・育成をする上で「あるべき社長・CEO像」を議論により明確化することである。 改訂CGコードでは,6点が改善された。第1に,企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与する資質を有する社外取締役の選任を行うことである。第2に,2人以上または3分の1以上の独立社外取締役の選任を行うことである。第3に,経営戦略等を踏まえた後継者計画を進めることである。第4に,持続的な成長に向けた健全な経営陣の報酬を客観性・透明性のある手続に従い,報酬制度を設計し具体的な報酬額を決定することである。第5に,会社における最も重要な戦略的意思決定として客観性・適時性・透明性のある手続によりCEOの選解任をすることである。第6に,ジェンダーや国際性等の多様性と適正規模を両立させる形で取締役会を構成することである。 直近では,日産の不正事件によりカルロス・ゴーン氏が勾留され,他人負罪型という日本の司法取引の特異性に注目が集まった。司法取引の協力者は弁護士の見解を検察の刑事処分の予想として把握し,その見解に依存せざるを得ない状況におかれる。見解が外れた場合,拘留者は協力者に対し報復するリスクがあると予測される。 CGコードやSSコードには,本件のような特異な日本の司法取引に関する規定は定められておらず,報復するリスクに対抗する術もない。今後は,諸外国の司法取引が行われた事例のグッドプラクティスやバッドプラクティスを収集し,本件を参考に司法取引に関する規定を両コードに追加する必要がある。 今後の日本のガバナンス改革は,CGコードとCGSガイドラインにおける司法取引に関する規定の追加による守りのガバナンスと,収益性を追求する攻めのガバナンスとのバランスを調整することで推進されていくであろう。

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