ブドウ新品種‘甲斐美嶺'

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抄録

山梨県果樹試験場では、農林水産省の指定試験地として1951年からブドウの育種事業を開始し、わが国の気象条件下でも容易に栽培が可能で高品質の生食醸造兼用品種の育成を図ることを目標に事業を進めてきた。その成果として、‘甲斐美嶺’を登録するに至ったので、その育成経過及び特性を報告する。本品種は1983年に‘レッド・クイーン’と‘甲州三尺’を交雑した実施2個体から選抜したものである。1984年に播種、育種後、1985年に個体番号13669として圃場に定植した。1990年に一次選抜を行い、1992年より‘山梨36号’の系統名で第8回系統適応性検定試験に供試した。その結果、白色系品種としては早熟であり食味も良好なことから、1997年8月19日に‘美嶺’と命名、‘ぶどう農林17号’として登録、公表された。その後、商標との類似のため、1999年3月31日に‘甲斐美嶺’と名称変更された。1997年3月31日に種苗法に基づく品種登録の申請を行い、1999年4月21日に出願公表された。樹勢は強く、新梢の伸びは旺盛である。葉の大きさは大きい。花穂は複穂円錐形で、1新梢あたり2~3花穂を着ける。花は完全花(両性花)であり、三倍体品種である。満開期は山梨市で6月上旬で、花振るいは小~中である。防除は‘巨峰’に準じた散布で問題となる病害虫は認められない。自然状態の果房は、有岐円筒~有岐円錐形であり、着粒密度は中~やや密である。果粒の形は扁円で、大きさは約1.6gである。満開時12.5または25ppm及び満開10日後の25ppmのジベレリン水溶剤の処理によって、4~5gに果粒が肥大し、400g前後の果房となる。果粒は黄緑色で果面の汚れやさびは少なく、果紛は少ない。果皮の厚さは中程度で、はく皮性は容易である。肉質は塊状であり、フォクシー香を有する。果汁の糖度は18~19°Brixで、酸含量は0.5~0.7g/100mlで食味はさわやかである。裂果はほとんど認められない。脱粒性はほとんど認められず、輸送性に優れる。果実の日持ちは中程度である。収穫の目安は糖度18°Brix以上、酸度0.6g/100ml以下、糖酸比30以上とする。全国のブドウ生産地帯での栽培が可能であるが、酸抜けが遅いことを考慮して、寒冷地を除く温暖なブドウ地帯での普及が見込まれる。

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