スギにおける花粉アレルゲンの遺伝的変異に関する研究

書誌事項

タイトル別名
  • スギ ニ オケル カフン アレルゲン ノ イデンテキ ヘンイ ニ カンスル ケンキュウ

この論文をさがす

説明

現在日本におけるスギ花粉症の罹患率は1割を超えており,花粉症対策は林業における重要な課題のひとつとなっている。これまでに雄花着花性の低い「花粉の少ないスギ品種」の選抜と利用が進められているが,スギ花粉の主要アレルゲンであるCryj1とCryj2の花粉単位重量当たりの含量もまた,個体間で大きく異なることが報告されており,アレルゲン含量の少ないクローンを選抜して花粉対策に利用できる可能性がある。スギは林業樹種であるため,花粉症対策品種に対しても林業において重要な成長特性や通直性,材質が優れていることが求められる。従って,それらの特性に優れた精英樹の中からアレルゲン含量の少ないクローンを選抜することが望ましい。そこで東北,関東,関西,九州の4つの育種基本区の精英樹を調査対象として,すでに定量法が確立されているCryj1含量の個体間変異を調査した。その結果,Cryj1含量はいずれの育種基本区の精英樹においても15~80倍の顕著な個体間変異があることが明らかになった。また,同一採種園内に植栽されているクローンを用いて推定したCryj1含量のクローン反復率は0.796,複数の採種園に共通で植栽されているクローンを用いて推定したクローン反復率は0.600と高く,Cryj1含量が強い遺伝的支配下にあることを示した。従ってCryj1含量の少ないクローンを選択的に利用することにより,花粉症を軽減できると考えられる。一方,本研究で行っているCryj1の定量法(モノクローナル抗体J1B01,J1B07を用いたサンドウィッチELISA法)ではCryj1が検出されないクローンが見出されたことから,これらのクローンはモノクローナル抗体との反応性が低いCryj1のアイソフォームを生産している可能性が示唆された。その場合,定量の精度に問題が生じる。そこで定量法を改良するために,これらのアイソフォームのモノクローナル抗体との反応性およびアミノ酸配列を調べ,反応性に影響を与えているアミノ酸変異を明らかにした。さらに,これらのアミノ酸変異を特異的に検出するCAPS(Cleaved Amplified Polymorphic Sequences)マーカーを開発して対立遺伝子頻度を推定し,各アイソフォームの頻度を推定した。その結果に基づいて定量法を改良し,Cryj1含量のクローン間変異を調べたところ,約13倍のクローン間変異が見出された。改良前の方法で検出されたクローン間変異よりは小さかったものの,十分に改良の効果が期待できる結果であった。また,もうひとつの主要アレルゲンであるCryj2についても定量法の検討を進め,確立した方法によってCryj2のクローン間変異を調べた。その結果,スギ花粉中にはCryj1と同程度のCryj2が含まれており,約12倍のクローン間変異があることが明らかになった。従ってCryj1のみならずCryj2についても改良を進めることにより,効果の高い花粉症対策品種を育成できると考えられる。

収録刊行物

被引用文献 (1)*注記

もっと見る

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ