延岡市脂妙見湾(櫛津干潟)に出現する貝類と甲殻類

抄録

延岡市櫛津町と妙見町の間にある櫛津干潟(妙見湾、妙見干潟など)は干出面積14haの潟湖干潟である。地区住民に親しまれ、塩生植物の保全などが行われ、入り組んだ内湾として多様な底質環境を備えた貴重な湿地である。しかし、底生生物に関する研究報告が全く見あたらないため、底生生物の出現状況と季節変化等の知見を得る目的で、2005年4月から12月まで毎月1回の定性調査と年3回の定量を行った。櫛津干潟で、生息の確認できた貝類は72種であり、甲殻類は42種であった。このうち、日本の干潟生物の現状を報告したWWFJの基準に照らすと、36種が絶滅危惧種となる。その内訳は「日本本土で絶滅」とされるカニノテムシロをはじめとして、「絶滅寸前」8種、「危険」22種、「希少」5種であった。しかし、カニノテムシロは、既知の一ツ葉入り江以外に櫛津干潟と本城川河口干潟でも記録され、「日本本土で絶滅」という評価は修正する必要がある。他の絶滅危惧種の中では、干潟中央部から南部にかけたクリーク内からは雌雄各1個体が採集されたムツハアリアケガニが、宮崎県では初めての記録となった。櫛津干潟の北部や中央部の潮間帯から澪筋にかけて高密度(最高71個体/m2)に生息するシオヤガイは、国内で減少傾向にあり、宮崎県では櫛津干潟が唯一の産地となる可能性もある。干潟中央部・北部・北西部では「絶滅寸前」のコゲツノブエが得られており、健全な個体群が維持されている。他方、櫛津干潟ではイボウミニナがほぼ絶滅状態で、周辺開発による人為的環境変化による底生生物の生息環境の悪化が懸念される。また、アサリ放流も移入種や病原体などを持ち込む懸念があり、廃止も含めて見直しが必要である。櫛津干潟に対する地域住民の高い関心は、今後もその環境保全には不可欠な役割を果たすことになると考える。

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