中部山岳地域における大気中酸性・酸化性物質の挙動 : 粒子状二次生成物質の長距離輸送と火山ガスによる環境影響

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  • チュウブ サンガク チイキ ニ オケル タイキチュウ サンセイ サンカセイ ブッシツ ノ キョドウ リュウシジョウ 2ジ セイセイ ブッシツ ノ チョウキョリ ユソウ ト カザン ガス ニ ヨル カンキョウ エイキョウ

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抄録

中部山岳地域の八方尾根(標高1850m)における大気質は東アジアの自由大気下層を輸送される汚染物質を代表すると考えられる。本報では八方尾根において、大陸から輸送されてくる汚染物質および2000年7月に噴火した三宅島火山の火山ガスの輸送中の光化学反応により生成されるSO4(2-)やNO3(-)などの粒子状二次汚染物質の挙動について解析した。浮遊粒子状物質(SPM、粒径10μm以下のエアロゾル)の採取は八方尾根で1カ月毎に通年で行い、その化学成分(水溶性陽、陰イオン、炭素成分、金属など)を測定した。また、強化観測としてエアロゾルは3〜6時間ごとに、降水は1日ごとに採取した。SPM中の主成分はSO4(2-)であり、年間平均でSPM総重量の20%も存在していた。他の主要な成分は有機炭素(OC、8.3%)、NH4(+)(5.2%)、元素状炭素(EC、4.4%)であった。SO4(2-)濃度は4月〜7月に高く、10月〜3月に低くなる季節変化を示した。この変化はオゾンやT-NO3(総硝酸、ガス状+粒子状)とほぼ一致し、光化学反応により生成したSO4(2-)が輸送されていた。また、SO4(2-)の一部はNH3などのアルカリ成分により十分に中和されることなく、硫酸ミストやNH4HSO4などの酸性粒子として輸送されてきたことが判明した。これらの大気汚染物質は日本国内以外に大陸からも長距離輸送されたと考えられる。T-NO3、OCおよびシュウ酸濃度もSO4(2-)濃度との間に高い相関が認められ、これらの成分は光化学反応により生成したと考えられる。三宅島火山は2000年7月に噴火し、SO2排出量は噴火直後に6万トン/日以上に達し、中国の人為起源による排出量にほぼ匹敵し、日本全土の排出量の20倍に達した。三宅島火山に起因する汚染気塊の移流によりSO2だけでなくSO4(2-)の濃度も増加した。三宅島からの火山性ガスの輸送に伴うSO2のSO4(2-)への酸化速度は0.44〜1.7%/hr(平均1.0%/hr)であり、日中に輸送された気塊の酸化速度は、夜間に比べ約2倍速かった。SO2の光化学反応により生成した硫酸は、まずアンモニアと反応し(NH4)2SO4を生成する。硫酸は過剰に存在するため、NO3(-)やCl(-)をエアロゾルからガス相に移行させ、残りは硫酸ミストとして存在した。放出されたHClやHNO3(酸性ガス状成分)は乾性や湿性沈着速度が極めて速いため、硫酸とともに降水の酸性化に強く影響した。なお、この現象は多成分ガスーエアロゾル化学平衡モデルによって実証された。三宅島火山の火山ガスによる影響は市街地においてもみられ、噴火した年度の火山ガスによる年間寄与率は県下平均で大気中SO2が20%、降水中のSO4(2-)が36%もあったが、3年後には噴火前のレベルに戻った。以上の解析結果により、山岳地域に輸送されてくる汚染気塊中には、多量の硫酸ミストなどの酸性粒子が存在し、これにより降水が強く酸性化されることが明らかにされた。

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