近畿大学奈良キャンパスにおけるキノコ群集の季節別、環境別変化

書誌事項

タイトル別名
  • Seasonal and environmental changes of mushroom communities on the Nara Campus of Kinki University
  • キンキ ダイガク ナラ キャンパス ニ オケル キノコ グンシュウ ノ キセツ ベツ 、 カンキョウ ベツ ヘンカ

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抄録

近畿大学奈良キャンパス内では多数の生物が生息・生育しているため、これまで多くの研究が行われてきた。しかし、きのこ類も同様の環境下で多数生育していると思われるが、詳しい調査は行われていない。農学部では、食用とするきのこ類に関しての研究は進んでいるが、自然環境下で広範囲にわたるきのこ類の発生や、生態に関して詳しい研究は行われていない。きのこ類は未だ研究途中であるため分類や種が確立していないが、きのこ類は生態系の中で分解者として重要な役割を担っており、研究は不可欠である。キャンパス内で生育するきのこ類を環境別に調査、解析を行うことで、季節的に各環境でどのような種が生育しているのかを明らかにし、きのこ類の生態系での役割を把握することを目的とした。調査は2010年4月中旬~12月中旬まで行い、ルートの左右3メートルのルートセンサス法を用いた。調査地はa. 芝生、b. アカマツ林、c. サンショウウオビオトープ(以下SB)を含む湿地帯周辺、d. 手すり-三叉路(斜面、広葉樹を多く含む混生林が密集)、e. 三叉路-258地点(尾根、広葉樹の他に局地的に針葉樹をかなり含み、樹木間に間隔がある)、f. 竹林(2010年6月中旬~12月中旬)の計6箇所を調査地として設定した。調査頻度は、a~eは週2回、fは週1回、調査地を歩き、各調査地で確認されたきのこ類の種数、個体数を記録し、気温、湿度、土壌水分を測定した。調査の結果、47科398種、91,973個体のきのこ類を記録した。総種数ではSBが最も多く、150種を記録した。種数が最も増加した時期は、各調査地とも10月上旬から11月上旬にかけてであった。また、気温が低下した時期にきのこ類の種数が増加傾向を示した。発生種の増加は環境によるものではなく、気温の低下が影響していると考えられた。月平均の積算気温では松林が197.3日度と最も高く、種数が多かったSBではa~eの調査地の中では177.5日度で、最も低かった。湿度と種数では、湿度が高い時期に発生種も多くなるという相関関係が一部の調査地で得られた。湿度と土壌水分の平均をそれぞれ出したところ、SBが最も高く、松林が最も低い結果となった。このことから、気温は低く、湿度は高い場所がきのこ類の発生に適した環境だと言える。キャンパス内で発見されるきのこ類には昆虫類の食痕が付いている個体が多く、食毒に関係なく全体の52%の個体が食べてられており、昆虫類の餌となっている。また、きのこ類も幼菌時に食べられないための構造となっているため、幼菌の食痕は老菌に比べて少なかった。成熟した胞子が昆虫類に食べられることによって、他の場所へ運ばれるため、きのこ類と昆虫は共生関係にあると考えられる。きのこ類の生態をさらに明らかにするためには、今後範囲を広げ、継続的な調査が必要である。

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