酪農業における乳牛の流動化の可能性(1)

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  • ラクノウギョウ ニ オケル ニュウギュウ ノ リュウドウカ ノ カノウセイ(1)

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説明

乳牛は流動化に適した資産である。そして,会計基準では生物資産と定義され,その固有の特長「生物学的変化」が,酪農の保護政策と結合し,乳牛資産の信用力という流動化で最も重要な要素を構成する。また,生物学的変化は,他の資産では起こりえない投資の動機付けを提供する。酪農業に資産の流動化を持ち込む目的は2つある。1.金融に流動化という新たな資金調達の手段が登場する。2.経営に債務を軽減して間接的に収益改善の機会を提供する。金融視点では,乳牛を流動化する行為は,酪農経営の信用力から独立した乳牛資産が持つ信用力を評価する資金調達に道を開くことである。つまり,貸借対照表の貸方にある負債に依存していた従来の金融が,借方の資産を活用した新たな資金調達をすることであり,酪農経営の過度の債務が,乳牛の流動化により得られた資金をもって債務を返済・軽減する行為を意味する。経営視点では,酪農経営の主要な課題,(1)労働力不足,(2)過度の債務状況,(3)低い収益力のすべてを流動化の活用によって解決するのである。もちろん,流動化が債務軽減と資産圧縮以外に直接労働力や収益力を改善するわけではないが,生産性を高めて労働力を補い収益力を向上させるのである。具体的には,労働生産性と資本生産性を同時に改善することで,売上高に対する利益と資産に対する利益も同時に高めることが可能になる。では,どのように生産性を同時に改善して,売上および資産収益を同時に高めるのか。その手段はすでに酪農業において実践されている。例えば,臨時に搾乳生産を担うヘルパー,自給飼料生産を委託するコントラクター,乳牛の食餌を製造委託するTMRセンター,疾病治療を委託する家畜診療所,会計納税計算を委託する税理士などである。これらは外部の経営資源を活用している。経営の業務プロセスを再構築することによって,経営資源を集中する中核業務プロセスと外部経営資源を利用する業務プロセスに区別して経営管理するのである。また,この実施主体は,外部雇用を容易にする労働環境や経営情報の活用を可能にする管理会計の採用などの構築・整備しやすい法人形態が望ましい。しかし,外部経営資源を活用する酪農経営は,経営単体での実施は難しく,地域産地のインフラ事業の性格が強いために地域経営の視点が必要になる。

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