鹿児島県におけるジャガイモそうか病の原因菌と防除に関する研究

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タイトル別名
  • Study on the causal Streptomyces species and the control of potato scab disease in Kagoshima Prefecture
  • カゴシマケン ニ オケル ジャガイモソウ カ ヤマイ ノ ゲンインキン ト ボウジョ ニ カンスル ケンキュウ

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抄録

そうか病はジャガイモや根菜類などの品質や市場価値に大きな影響を及ぼす重要な病害である。本研究では,本邦で主要なジャガイモ産地である鹿児島県と長崎県におけるジャガイモにそうか病を引き起こすStreptomyces種を中心に調査した。分離株は16S-23S rRNA間に存在するスペンサー領域(ITS)の塩基配列に基づくそうか病菌種の特異プライマーによるPCRで,3種に分類した。鹿児島県から分離されたそうか病分離株の42%がS. scabieiで,52%がS. turgidiscabiesとなった。一方,長崎県の分離菌株の83%はS. scabieiとなった。ジャガイモから分離されたすべての病原性のある分離株はS. scabiei,S. turgidiscabiesおよびS. acidiscabiesの3種に分類され,サクストミン生合成遺伝子を保有していた。また,長崎県と佐賀県から分離されたS. acidiscabiesはpathogenicity island中の2つの遺伝子(tomAとnec1)を欠いていた。病原性のあるS. scabieiは16S-23S rRNA ITSの塩基配列により,2つの遺伝子型(TタイプとJKタイプ)に分類された。いくらかの分離株は両タイプの遺伝子を保有した(Bタイプ)菌株が存在することが明らかとなった。そうか病菌は種により特性が異なる。特に,pH耐性はそうか病の防除のために重要であることから,S. scabieとS. turgidiscabiesを特異的に区別するため,16S-23S rRNA ITSを標的としたSYBR Green定量PCR用のプライマーを開発した。本法を用いるとS. scabieiとS. turgidiscabiesが混在した植物組織や土壌でも影響なく定量可能であった。そこで,本定量PCR法を用い,異なる土壌pH(植付時;4.4~5.2)でそうか病菌の動態を調査するため,S. scabieiとS. turgidiscabiesを単独あるいは混合して接種したハウス内の無底ポット内土壌でジャガイモを栽培した。その結果,S. turgidiscabiesはS. scabieiと比較し,pH4.7でも増加し,pH耐性が強いこと認められた。また,S. turgidiscabiesとS. scabieiを混合した区では,土壌,根および病斑部のすべてにおいてS. turgidiscabiesが優先した。このことは,本邦のジャガイモ産地ではS. turgidiscabiesが優勢する可能性を示唆しており,今後ともそうか病菌種の変遷には注意を払う必要がある。なお,これら結果は低pH条件下の土壌,根および塊茎の病斑中において,S. turgidiscabiesがS. scabieiよりも常に優先していることを定量的に示した初めての報告である。種いも消毒はそうか病菌の伝染を予防するための重要な防除技術である。そこで,主要な種いも消毒剤の効果を評価するため,定量PCRを用いそうか病菌の動態を調査した結果,防除効果の高い種いも消毒剤は,種いもおよびその周辺のそうか病菌密度を長期に抑制していた。また,そうか病菌種別に薬剤の最少生育阻止濃度(MIC)を求めた結果,S. acidiscabiesはフルアジナム剤およびストレプトマイシン剤のMICは他の2種と比較して高く,S. turgidiscabiesの中にはストレプトマイシン剤に耐性を持つ菌株が存在していた。他に,物理的防除法である種いもの温湯処理についても検討した結果,温湯消毒単独の防除効果は非常に低いが,温湯処理後に微生物製剤を併用することで著しく防除効果が向上することが判明した。最後に,そうか病の士壌消毒法として太陽熱消毒などについて,効果的な使用法を検討した結果,太陽熱消毒と植え付け前の米ぬかの施用,あるいは,抵抗性品種と肥料を組み合わせることなどで,ジャガイモそうか病の効果的な総合的防除法を構築できることを明らかにした。

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