収益費用観・資産負債観に関するふたつの検討課題(2)

書誌事項

タイトル別名
  • シュウエキ ヒヨウカン・シサン フサイカン ニ カンスル フタツ ノ ケントウ カダイ (2)
  • Shueki hiyokan shisan fusaikan ni kansuru futatsu no kento kadai (2)
  • Two tasks of revenue-expense view and asset-liability view (2)

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抄録

type:text

今日, 会計の議論は, 収益費用観と資産負債観とを座標軸としてなされていると言ってよいであろう。この収益費用観・資産負債観という枠組が, 脚光を浴びるに至ったのは, 制度的には, 我が国の場合, 売買目的有価証券について売却時価評価が取り入れられたことに淵源している。しかし, この概念は, その内容が曖昧模糊としているし, かつ, 多様な概念と結び付き得るので, 会計のどの領域にも援用可能であるかのようにみなされている。つまり, 売買目的有価証券の時価評価のような貸借対照表評価の領域についてのみならず, いわゆる負債性引当金のような擬制負債にかかわる貸借対照表能力の領域についても, さらには, 資産除去債務のようにリスク・実態表示目的への計算目的の転換が必要な領域についても, 収益費用観・資産負債観という枠組で説明されているのである。しかし, それらの領域は, 本当に, この枠組によって, 合理的に説明できるのであろうか。その点, 筆者は大きな疑問を覚えている。そこで, 収益費用観・資産負債観という枠組を援用できる領域を限定する, という作業がどうしても必要になる。この点が, 収益費用観・資産負債観の研究に関する第1の課題になる。 結論的には, 収益費用観・資産負債観は, 売買目的有価証券の時価評価にみられるように, フローとストックとの関係にかかわる計算方式として, 会計上の評価規約の規定に関して, 重要な一翼を担っていると筆者は考えている。もっとも, 評価規約の規定要因については, 諸学説によってさまざまであろう。したがって, そうした考え方を整理することによって諸学説を比較する枠組を構築しつつ, 各学説において収益費用観・資産負債観が果たしている役割を明らかにすることが, 収益費用観・資産負債観に関する第2の研究課題になる。 本稿は, このふたつの研究課題について, 4回に分けて, 筆者の考えの概要を述べることとしたい。前号では, 特別修繕引当金を検討したので, 本号では, 資産除去債務を取り上げて, 計算目的の変更を含むこの領域にも, 収益費用観・資産負債観という枠組が関与しない, ということを明らかにしたい。 資産除去債務については, 一般に, 収益費用観に属するとされる引当金方式と資産負債観に属するとされる資産負債両建方式というふたつの処理方式があるとみなされている。しかし, 引当金方式では, 負債の全貌表示が不可能であることから, 今日, 制度的には, 資産負債両建方式が採用されている。この方式には, リスク・実態表示目的という計算目的にかかわる資産負債観が, 組込まれている(その結果, さらに, ストック主導方式という計算方式としての資産負債観も, 組込まれている)。そのため, 資産除去債務の割引現在価値額が計上されるとともに, それに対応する額が付随費用として資産に付加されることになる。しかし, その論理必然的結果として, 資産除去債務に発生する支払利息および資産の減価償却費(価値移転現象)を合理的に説明できなくなってしまうのである。つまり, 損益計算という計算目的の視点からすると, 理論的に破綻してしまったわけである。 これまで, 会計は, 経済的便益をもつものとしてのグッズだけを計算対象としてきたが, 損益計算にかかわる現行会計を合理的に説明するためには, 有害物質そのものを, 計算対象として認識すべきである, というのが筆者の考えである。いま, これをバッズとよべば, このバッズは, 価値生産活動に関する企業の損益産出活動に伴って生じたものに他ならない。それが, 企業の損益産出活動にかかわっているいじょう, 計算目的レベルで言えば, 損益計算としての収益費用観が妥当するはずである。他方, それが, 価値生産活動にかかわっているいじょう, 計算方式レベルで言えば, フロー主導方式としての収益費用観が妥当するはずなのである。 こうした筆者の見方によれば, 資産除去債務事象は, 計算目的および計算方式としての収益費用観を資産負債観に転換することによって解決できる問題ではない。(依然として, 損益計算という計算目的としての収益費用観, およびフロー主導方式という計算方式としての収益費用観を保持したまま)バッズ概念の導入という計算対象の再構成によってのみ, 解決が可能なのである。その意味において, 資産除去債務事象は, 収益費用観・資産負債観という枠組に関与する問題ではないと筆者は考えている。

論文

収録刊行物

  • 三田商学研究

    三田商学研究 60 (6), 29-42, 2018-02

    慶應義塾大学出版会

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