社会福祉法人の内部留保について : 企業との比較を交えつつ

書誌事項

タイトル別名
  • シャカイ フクシ ホウジン ノ ナイブ リュウホ ニ ツイテ : キギョウ トノ ヒカク オ マジエツツ
  • Shakai fukushi hōjin no naibu ryūho ni tsuite : kigyō tono hikaku o majietsutsu
  • An analysis regarding internal reserves of social welfare corporation : compared with that of commercial enterprise

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抄録

type:text

社会福祉法人は地域福祉サービスを支える存在として長年公的優遇措置を受けてきた。このような中, 規制緩和によって他業種からの社会福祉サービスへの参入が盛んになり, 社会福祉法人自身が多額の内部留保を蓄積しているのに対し, 新たな社会的課題には消極的な姿勢であり公的優遇に見合った社会還元を十分行っていないのではないかという批判が近年高まっている。 だが, そもそも社会福祉法人の内部留保に関する研究はあまりにも少ない。そこで, 本稿では社会福祉法人の内部留保の実態とはどのようなものなのか探究することを試みた。 まずは, 本研究遂行にあたり内部留保の概念整理を行った。内部留保は正式な学術用語ではなく, 企業会計・経営分野で研究が発展してきたところであるため, 企業会計分野の内部留保概念について最初に取り上げて検討した。その上で, 社会福祉法人における内部留保概念について検討した。 次に, 社会福祉法人の内部留保の実態を把握するために仮説を立てて検証を行った。第一は, 社会福祉法人の内部留保は同種企業よりも多いのか。第二は, 社会福祉法人の内部留保は規模に比例して増大するのか。第三は, 社会福祉法人の内部留保は分野毎に差異があるのか。特に参入規制が多い分野ほど内部留保が蓄積される傾向が強まるのでないか。このような3つの視点から仮説を立てて検証を行った。 結果として, 第一の点については利益留保の側面から見ると企業に比べて多い傾向にあることが分かった。しかし, 資金留保の側面から見るとむしろ少ない傾向にあることが分かった。第二の点については, 利益留保及び資金留保のどちらの側面においても, 規模に正比例して内部留保は増加する傾向にあることが分かった。第三の点については, 分野毎に明確な差異が存在する。つまり, 内部留保比率は障害者・児童・高齢者の順番になる傾向があり, 仮説とは真逆の結果となることが分かった。 そして, 今回の研究を通じて問題点であると感じたのは, 内部留保把握のために信頼性のある情報を開示できない法人の存在である。近年の法改正などを受けて社会福祉法人には財務情報を含めた情報開示(ディスクロージャー)が義務付けられるようになったが, 国民への説明責任という側面で見た場合, 不十分な情報開示ディスクロージャー)という形でしか未だに対応できていない社会福祉法人が存在する。介護保険料等の公的資金を主な収入源とする収益構造, 各種補助金の存在, 税制優遇という公的保護の観点から社会福祉法人の存在について考えてみると, 公金支出先としての社会福祉法人に対する行政監督や究極的な資金の出し手としての国民の目からの監視は重要であるのに対し, そのような法人側には国民への情報開示(ディスクロージャー)意識が未だ乏しいのではないか。だが, 社会福祉法人がこれからも社会から支持される存在であり続けるためには国民に対する情報開示(ディスクロージャー)の重要性は高いものと考える。

黒川行治教授退任記念号#論文

収録刊行物

  • 三田商学研究

    三田商学研究 61 (1), 93-111, 2018-04

    慶應義塾大学出版会

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