社会的包摂としてのインフォーマル教育-生き直しの学校を事例として-

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書誌事項

タイトル別名
  • Informal Education as Social Inclusion: A Case Study of New Life Project
  • シャカイテキ ホウセツ ト シテ ノ インフォーマル キョウイク : イキ ナオシ ノ ガッコウ オ ジレイ ト シテ

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抄録

本稿ではタイのスラムをはじめとした劣悪な環境で,麻薬密売,犯罪,物乞い,物売り,児童虐待といった社会的排除に遭った子どもたちを,NGOがインフォーマル教育を通して包摂する取り組みについて述べている。タイのバンコクのスラムを拠点として活動する,「ドゥアン・プラティープ財団」が 運営する児童養護施設,「生き直しの学校カンチャナブリー校」を事例に考察する。 タイのスラムは1950~1960年代の急激な工業化,近代化政策の歪みによって生まれ,現在に至るまで居住問題,雇用問題,家庭問題,治安の悪化等,解決されない多くの問題を抱えている。本来このような問題の被害者である子どもたちは,公的社会福祉によって保護されるべきであるが,現状は十分なケアは行われていない。これらを補完するように,ときに行政と協働しながら包摂しているのがNGOである。 「生き直しの学校」では小学生から高校生までの子どもたちが共同生活を行い,平日は公立の学校に通学している。職員11名を対象に行ったアンケート調査からは,予算の不足,子どもを見て育てる専門家(カウンセラー・医師・社会福祉士)の不足が課題として挙げられた。予算の不足は財団の活動が多岐にわたり,その上不況で寄付が減少したためと考えられる。またカウンセラー等の専門家は,幼少期悲惨な体験をしている子どもが多く,心理的な治療や教職員の研修等が必要であり,子どもの語りを聞く専門家が求められて いるためと考えられる。 子どもたちはこの学校に入学して,家庭的な雰囲気の中で規律のある生活を行いながら更生し,心身共に健康になっていく。長期的に子どもたちの成長を見守ることのできるこのようなインフォーマル教育を行う施設は,これからも社会的包摂としての役割を担っていくことを期待される。また卒業後 も自立した生活ができるように,子どもたちの「家」として継続的に支援していくことが必要である。

収録刊行物

  • 研究論集

    研究論集 11 267-284, 2011-12-26

    北海道大学大学院文学研究科

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