The services and crimes of Inspector Imanishi Investigates, Seicho Matsumot

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  • 『砂の器』の功罪
  • 『 スナ ノ ウツワ 』 ノ コウザイ

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長きに渡り法によって隔離の対象とされ、偏見と差別に晒された歴史を持つハンセン病という病が殺人の動機として焦点 化される『砂の器』は、同時代の推理小説を「社会派」一色にした松本清張を代表する長編作品である。社会派とは、推理 小説におけるリアリズムや社会に対する問題提起性を重 要視した清張の発言と作風に影響を受けた作品の一群のことであ り、その社会派推理小説の金字塔とも呼ばれるこの作品は、日本の社会に現存していた疾病差別の実態を明らかにしている として、現在も高く評価されている。 しかし、推理小説における〞解決〝という点に着目してこの作品を見直してみる と、作品の最後で明かされる推理には、 真である保証も論理性も欠落していることが明らかになる。動機の保持者がすなわち犯人と名指されるこの作品は、推理さ れた動機が、殺人という行動を起こすに足ると読者が認めるという行動を通して読者自身が〞解決〝する推理小説、と考 え ることもできるが、このような『砂の器』の推理小説としての〞特徴〝は、ハンセン病に対する「差別」を読者の内に構成 するという仕掛けとして機能する可能性を浮上させる。 感染力も微弱であり、戦後すぐの時点で日本でも外来治療が可能と医学的に認められていたハンセン 病に対し、日本は、 『砂の器』の連載が開始された一九六〇年になっても、依然隔離と優生手術の必要が明記された「らい予防法」が保持し続け ており、世界から批判の対象となっていた。マスコミも隔離を支持していたという当時の日本にあって、読売新聞という全 国紙でハンセン病 による悲劇を綴った清張の功績は大きい。しかし、ハンセン病を殺人の動機として推理小説の構造に組み 込んでしまったことで、さらに、その推理小説の解決を読者に委ねてしまったことで、『砂の器』はどのような事態を読者に 呼び起こし得るのか。ハンセン病に対する「差 別」の歴史と合わせながら、この作品がもたらした効果の二面性について考 察を行った。

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