ラット脊髄虚血再灌流モデルにおけるシンバスタチンの神経保護効果

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タイトル別名
  • ラット セキズイキョケツ サイカンリュウ モデル ニ オケル シンバスタチン ノ シンケイ ホゴ コウカ
  • Neuroprotective Effects by Simvastatin on Spinal Cord Ischemia/Reperfusion Injury in Rats

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抄録

【背景】下行大動脈, 胸腹部大動脈の手術は, 大動脈遮断による一時的な脊髄虚血が避けられため, 重篤な合併症である対麻痺を生じる可能性がある. 対麻痺を防止するために, 低体温, 脊髄ドレナージ, や虚血プレコンディショニングなどの手段があるが, それらは必ずしも充分な効果をもたらせないばかりか, 煩雑で侵襲が高く, 更なる合併症を引き起こす可能性が高い. よって, 侵襲を伴わない薬物療法による脊髄保護に期待されている. スタチンは高脂血症の治療において使用される一般的で且つ安全性の確正された薬剤である. 近年, スタチンの神経保護作用に注目され, 脳虚血再灌流においては調べられてきたが, 脊髄虚血で試された報告はなかった. そこで, 本研究において, シンバスタチンが脊髄虚血再灌流に保護効果をもたらすかラット脊髄虚血モデルで評価を行なった. 【材料と方法】雄性SDラット18匹 (380-420g) を無作為に Simvastatin 10mg/kg/day (Sim群), Vehicle (V群), Sham (Sham群), の3群 (各 n =6) に振り分けた. Sim群は 10mg/kgを虚血前7日より一日一回と再灌流後24時間に皮下注した. ラットは, 1.5%のイソフルレン混合ガスの流れるマスクによる自発呼吸下で麻酔維持. ヘパリン投与後, 左大腿動脈より2Frのフォガティーカテーテルを挿入し, 左鎖骨下動脈直下でバルーンを膨らませると同時に左総頚動脈より潟血させ, 中枢圧を40mmHgになるようにコントロールした. また, このとき尾動脈圧の脈圧が無くなり10mmHg以下になることを確認し脊髄虚血とした (虚血時間は12分). シンバスタチンの脊髄虚血再灌流に対する保護効果は, 下肢運動能と組織学的評価で行なった. 下肢運動能には Motor deficit index (MDI) を用いて, 再灌流後6-48時間後に評価した. また, 48時間後の評価終了後, 腰膨大部のパラフィン包埋切片を作成しNissl又はとHE染色を行なった. 組織学的評価には灰白質の正常神経細胞数と白質の空胞率を観察した. 【結果】再灌流後24, 48時間後のSim群のMDIはV群に比べ有意に下肢の回復を示した(P <0.05). 再灌流48時間後, 脊髄前角の正常神経細胞数は, Sim群ではV群に比べ有意に多かった(P <0.05). また, 白質の空胞率は, Sim群とV群を比較するとⅤ群は有意に高かった (P <0.05). 【結論】12分間のラット脊髄虚血モデルで, シンバスタチンは再灌流後の運動能と組織障害を軽度におさえる効果を示した. これらの結果は一般的で安全性の示されているスタチンの使用法の一つとして, 下行大動脈や胸腹部大動脈の手術に於ける周術期管理に応用できる可能性を大いに秘めている.

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