評価規約における収益費用観・資産負債観の意義 : 意思決定有用性学説 (3)

書誌事項

タイトル別名
  • ヒョウカ キヤク ニ オケル シュウエキ ヒヨウカン・シサン フサイカン ノ イギ : イシ ケッテイ ユウヨウセイ ガクセツ (3)
  • Hyōka kiyaku ni okeru shūeki hiyōkan shisan fusaikan no igi : ishi kettei yūyōsei gakusetsu (3)
  • Two conceptual view of earnings and valuation rule : theory of decision usefulness (3)

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抄録

type:text

現行会計実践における評価規約は, どのような要因によって規定されているのであろうか。その点を巡っては, いろいろな考え方があり得ようが, 本稿は, 今日提唱されている諸評価学説を評価規約の規定要因という視点から類別し, そのうえで, 現行会計実践を合理的に説明できる類型を特定化したいと考えている。 評価学説の類型化の枠組については, 既に, 拙稿「収益費用観・資産負債観に関するふたつの検討課題 (4) 」(『三田商学研究』第61巻第3 号) において筆者の考えを明らかにしておいた。それによれば, 計算対象の論理を組込む類型と, 計算対象の論理を排除する類型とに大別されるのであるが, 本稿は, そのうちの後者の類型を取上げることとしたい。 この後者の類型に属する評価学説を, 本稿は意思決定有用性学説と名付けているが, そこでは, 計算目的 (損益計算) を最上位概念としつつ, 計算目的が達成されるような形で, 計算方式が形成されるのである。そして, その計算目的および計算方式を規定要因として, 現行会計における評価規約が, 導出されるわけである。したがって, そのかぎりでは, [(計算目的⇒計算方式) →評価規約] とでも定式化できるであろう。 そこで, このシェーマに従って, 現行の評価規約が導出されるプロセスを辿ってみよう。まず規定原理側の諸概念の関係であるが, その計算目的としては, 平準化利益観とボラティリティ反映利益観という二項対立が, また計算方式としては, (フローを起点とする) フロー起点方式 (配分) と (ストックを起点とする) ストック起点方式 (評価) という二項対立が, 一般に説かれており, さらに, 計算目的と計算方式との関係については, 平準化利益観とフロー起点方式 (配分) とが, および, ボラティリティ反映利益観とストック起点方式 (評価) とが, それぞれ一義的に結び付けられているようである。 次に, 評価規約の規定原理 (利益観・計算方式) と評価規約との関係であるが, この点については, どうやら, 平準化利益観 (フロー起点方式) からは取得原価・償却原価という評価基準が, 他方のボラティリティ反映利益観 (ストック起点方式) からは売却時価という評価基準が導出されるようである。しかし, 問題は, そうした評価基準と個々の勘定項目とを結び付ける論理である。その点は, 必ずしも明確に主張されているわけではないが, どうやら, 取得原価には信頼性が具わっていること, および売却時価には目的適合性が具わっていることを前提とした, 取得原価と売却時価とのトレードオフ関係という概念を用いて説明されるようである。すなわち, 信頼性が重視される製品等については信頼性を具備している取得原価が, それに対して, 目的適合性が重視される投機目的有価証券には目的適合性を具備している売却時価が, 割当てられるということのようである。 そのように考えれば, 意思決定有用性学説の処理方式の全体像は, 次のようになろう。 [図表] この処理方式の全体像に従って, そこにおける諸概念の有意味性, および諸概念の関係の有意味性を逐一検討することにしよう。この処理方式に準拠するかぎり, ① (平準化利益観とボラティリティ反映利益観という) 二項対立の有意味性, ②利益観と計算方式との一義的関係 (平準化利益観とフロー起点方式との一義的関係, およびボラティリティ反映利益とストック起点方式との一義的関係) の有意味性, ③ (フロー起点方式とストック起点方式という) 計算方式の二項対立の有意味性, そして, ④評価基準と割当規約との関係の有意味性 (売却時価=目的適合性と取得原価=信頼性とのトレードオフ関係の妥当性) が, 問題になる。しかし, この処理方式に拠るかぎり, さらに, 平準化利益観に準拠した取得原価・償却原価とボラティリティ反映利益観に準拠した売却時価とが混在することになる点も, 問題になる。つまり, 平準化利益観とボラティリティ反映利益観とは, 一般に異質の利益観とみなされているので, ⑤異質の利益観に帰属する取得原価と売却時価との加法性が, 問われなければならないのである (これは, ①利益観の二項対立の有意味性に通底していると言ってよいであろう) 。 本稿で纏めた意思決定有用性学説については, 以上の5 点が検討されなければならないが, 本号では, このうちの⑤について, 取上げることにしたい。 なお, 本稿は, 拙稿「処理規約の規定要因―利益観・企業の経済活動の態様・計算方式を巡って (1) ~ (4)―」 (『三田商学研究』第58巻第6 号~第59巻第3 号) を改稿したものである。すなわち, 旧稿の掲載後に, 現代評価学説を類型化する筆者なりの枠組を形成するに至ったが, 旧稿も, 意思決定有用性学説として, その1 類型に位置づけられることになった。そこで, その枠組に沿って, 改めて, 書き直す必要が生じた。そうした加筆・修正を行なったものが, 本稿である。

論文

収録刊行物

  • 三田商学研究

    三田商学研究 62 (1), 29-50, 2019-04

    慶應義塾大学出版会

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