粉飾決算・不適切会計の理論と実際 : 財務諸表分析アプローチの効用と限界
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- 田村, 俊夫
- 一橋大学
書誌事項
- タイトル別名
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- Theory and Practice of Accounting Fraud: Merits and Limitations of Financial Statements Analysis
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説明
・ ディスクロージャー制度は、証券市場が有効に機能する上で最も重要なインフラのひとつであるが、粉飾決算・不適切会計は、証券市場の機能を深刻に阻害する。粉飾決算と不適切会計については、公表された財務諸表から如何に粉飾を見破るかという観点からの分析が一般的であるが、財務指標分析等の伝統的な分析手法は不正会計を見破る上では、それほど有効性が高いとはいえない。・ 本稿では、まず、粉飾により財務諸表にどのような歪みが発生しているかに焦点を当て、その理論的構造を分析する。その上で、公表財務諸表から粉飾を見破ることが可能であったかどうかを念頭に置きつつ、実際の上場企業の粉飾決算・不適切会計の事例を分析する。・ 粉飾決算・不適切会計が財務諸表に与える影響を分析する上で、最も重要なポイントは、利益を過大表示すれば純資産が過大表示され、バランスシートがバランスするために、必ず資産の過大計上(架空資産)か負債の過小計上(簿外負債)が発生するということである。この「粉飾決算の恒等式」は非常に強力なツールであり、貸借対照表の分析から粉飾決算・不適切会計発見の端緒を掴むことができる。・ しかし、資産規模に対して極めて大きな粉飾を行っている場合は別として、一般に公表財務諸表におけるバランスシートの歪みだけから粉飾を察知するのは難しい。公表財務諸表の分析だけでは粉飾決算・不適切会計を見破ることが簡単でない以上、外部分析者は有価証券報告書の注記等あらゆる情報に注意を払う必要がある。それ以上に、特に上場企業においては、海外子会社等を含む内部統制の強化や監査法人による監査の一層の進化が強く求められるところである。・ 損益計算書を糊塗する粉飾決算・不適切会計は、必ず貸借対照表に歪みをもたらす。公表財務諸表を越えた詳細な内部会計データを用いてその歪みを検証すれば、内部・外部の監査が不正会計を探知できる可能性が高まるであろう。経営者や投資家、アナリストが本稿で示したような粉飾決算・不適切会計の財務諸表に与える影響の相互関係を理解することは、不正会計を感知する可能性を増すのみならず、発見された不正会計の性質を分析する上でも有用性が高いであろう。
収録刊行物
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- 資本市場リサーチ
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資本市場リサーチ 52 146-184, 2019-07
みずほ証券
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1050850490509337984
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- NII論文ID
- 120006809299
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- NII書誌ID
- AA1285312X
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- HANDLE
- 10086/31003
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- 本文言語コード
- ja
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- 資料種別
- journal article
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- データソース種別
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- IRDB
- CiNii Articles