買収合意で乾杯するのはまだ早い : 米国上場企業事例からのインプリケーション

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タイトル別名
  • It's Too Early to Toast at Signing: Implications from US Public Company Deals

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抄録

・ 企業買収の検討を始め、デューディリジェンスを行い、契約書の内容を交渉して調印し、買収合意成立を公表する。それでも実際に買収を完了できるかどうかは分らない。独占禁止当局の承認が得られずに買収完了を断念することもあれば、アクティビスト・ヘッジファンドなど株主の反対により公開買付けの成立や株主総会の承認が危うくなり、合意した買収価格の引上げを迫られることもある。・ 中でも脅威なのが、買収合意後に第三者によるより高い価格での買収提案が出現して「横取り」されるリスクである。米国上場企業の場合、取締役会は株主への受託者責任を全うするために、買収や合併の合意成立後でも、より優れた条件のオファーがあれば、公開買付けへの賛同表明を取り消したり、株主総会における合併契約承認の推奨を撤回したりすることが求められ、そのようなフィデューシャリーアウト条項を合併・買収契約に織り込むのが一般的である。・ デューディリジェンスや契約交渉のコストと手間をかけて合併・買収契約に調印しても公表後に簡単に横取りされるのでは、買収交渉を行う意欲が薄れる。そこで、No-Shop条項やMatching Right、ブレークアップフィーなど、さまざまなディール保護措置が工夫されているが、対抗買収者リスクを完全に消滅させることはできない。・ また、MBOや完全子会社化取引においては、一般株主保護のための受託者責任に万全を期そうとするほど、プロセスや成立条件を自発的に厳しくせざるを得ず、結果的にクロージングが困難になる場合も多い。・ 日本では従来は、合意された買収案件はクロージングするものと思われていたので、対抗買収者の出現リスクやディール保護措置にはほとんど考慮が払われていなかった。しかし今後は、たとえ国内案件でも、買収合意後の対抗買収者の出現も考慮に入れる必要があろう。中でも取締役の受託者責任としてのフィデューシャリーアウトの義務、求められる適正手続きの度合い、ディール保護措置の必要性などは、今後、重要な論点となるだろう。また、MBOや完全子会社化についても、受託者責任の完遂とクロージングの難度のトレードオフの問題は、今後さらに重要性を増していくであろう。「実験場」としての米国の先例は、そのような議論にきわめて有益な示唆を提供するものと思われる。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1050850490554045696
  • NII論文ID
    120006926924
  • NII書誌ID
    AA1285312X
  • HANDLE
    10086/31006
  • 本文言語コード
    ja
  • 資料種別
    journal article
  • データソース種別
    • IRDB
    • CiNii Articles

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