A Succinct Catalogue of Shanker Thapa's First Phase Digital Collection of Private Sanskrit Buddhist Manuscripts in Patan, Nepal

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  • 立正大学所蔵ネパール梵語写本:タパ・コレクション:デジタル・アーカイブ簡易カタログ

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抄録

中央アジアやギルギットなどで「出土写本」として発見されている仏教写本よりもその書写年代が下るとはいえ、ネパールにおいて「伝世写本」として今に生きる仏教写本の発見と近代仏教学の形成とが不可分の関係にあることはいうまでもない。ところで、私たちは、ネパールはインドにおいて失われてしまったサンスクリット写本を今も多く保有する国、という印象を持っていないだろうか。このことは、ネパールはインドで失われたサンスクリット仏教写本の一部を単純に伝世写本として今も伝承する地域、というイメージのみを我々に与えかねない。しかしながら、すでに指摘されているように「ネパールのサンスクリット仏典の中には、ネパール人の著述や編集にかかる文献が、かなりの数存在」し、また「ネパールと何らかのかかわりをもったテキストは、残存する写本の数が多い」のが事実である。つまり、ネパールに残された仏教写本は、単にインドで失われたものそのものというわけではなく、「ネワール仏教」(Newar Buddhism)という独自の宗教文化の伝統の中で書写されたてきたもの、と捉えておく必要があると言われている。すでに19世紀の時点でホジソンやビュルヌフによって言及されているように「ネワール仏教」の特色を示すものとして「九つの法」(navadharma または navagrantha)をあげることができる。その後、1世紀以上を経た2003年、ネパールにある Lotus Research Centre からネワール語訳『八千頌般若』(Aṣṭasāhasrikā Prajiñāpāramitā)が出版された際に、ウィル・ダグラス(Will Tuladhar-Douglas)はネワール仏教が有する特色として改めて「九つの法」を紹介し、「三宝マンダラ」(triratna-maṇḍala)の中の「法マンダラ」(dharma-maṇḍala)の中の内容がいわゆる「九法」にあたること、そしてネワール仏教が歴史的に展開する中で「九法」の内訳が変化していること(つまり、新旧の「九法」があること)を指摘している。ネワール仏教の特色といえる「九法」の成立と展開の解明は、今なお取り組むべき研究課題といえる。本稿に示すタパ・コレクション・リストには、新旧2種の「九法」の全経典が含まれている(つまり、本プロジェクトにて保存している写本のデジタルデータには、新旧二種の「九法」を構成する都合11の経典が収められている)。それらの殆どは、いわゆる個人蔵のものであり、伝統的「ネワール仏教」の儀礼中において今もなお使用されているものである。かつてホジソンや河口慧海らは、経典の原本をネパールにて入手し、それらをネパール本国より自国等に持ち出していた。それより1世紀以上を経た現在、科学技術の進歩により、写本のデジタル化が可能な時代となり、写本自体を現地より持ち出す必要性はなくなった。本プロジェクトでは、今もなお現地で使用されている経典のデジタルデータの収集を行っている。これは、現地での伝統継続の契機を奪うことなく、「九法」を中心とした儀礼を含むネパールの仏教文化全体をデジタルデータにて保存しつつ研究を進めることが可能となったことを意味する。なお、立正大学品川図書館には河口慧海によってネパールから日本へと将来された梵文『華厳経入法界品』(Gaṇḍavyūha)写本が所蔵されているが、この写本と今回当プロジェクトがデジタルデータを入手した写本群とは全く無関係なものではなさそうである。なぜなら、立正大学所蔵『入法界品』第一葉の挿画と、タパ・コレクション中の『楞伽経』(Laṅkāvatāra)第一葉の挿画とが極めて類似しているのである。挿画を含むタパ・コレクション中のテキストについての具体的な検証はこれからなされるべきである。

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