適応のかたち : サハの在来家畜と環境

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タイトル別名
  • Topography of adaptation: Native domestic animals in Sakha (Yakutia) and the environment
  • テキオウ ノ カ タチ : サハ ノ ザイライ カチク ト カンキョウ

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説明

気候変動による環境変化への適応のあり方が模索される今日、適応という言葉は、様々なエージェントが環境に応じてその性質を変化させる様を指して用いられる。本来複雑なプロセスであるところの適応は、それが解釈される社会的状況に応じて概念化され、さらに様々なかたちで展開されている。本論では、サハの在来家畜であるヤクート牛とヤクート馬を例に取り上げて、環境への適応に関する理解が、ただ生物の生理的機能によるものであるだけでなく、それに対する人々の受け止め方によって、生物のあり方に影響を及ぼすものでもあることを明らかにする。在来家畜は、長年にわたって特定の地域で飼育される中で、その土地の気候風土に適応した体質を獲得した家畜とされる。しかし、特に生殖機能を高めるために西洋で進められた近代的育種の影響を受けないため、それによって造成された家畜品種と比べると、全体的に機能や能力の面で劣る。サハの在来家畜の一つであるヤクート牛は、スターリン時代に始まった農業集団化が進展する中で、より体格が大きく乳量の多いヨーロッパ産のウシと置き換えられたり、交雑が進められたりした結果、今日では絶滅寸前に陥るまで数が減少した。サハの農業指導者の中には、ヤクート牛が土地の環境に適応した家畜であるとして擁護する者もあったが、ルイセンコ主義に従って生産性の向上を優先する行政指導者によって、近代的家畜品種との交雑が強力に推し進められた。その一方で、ヤクート馬に関しては、その環境への適応性が一貫して評価され、今日に至るまで持続的に飼育されている。ヤクート馬は生息地域別に複数のタイプに分類され、種別の同定に関心が向けられるとともに、その起源について論争が交わされる中で、環境への適応が積極的に考慮された。環境への適応が取り上げられる濃淡の違いによって、サハの在来家畜の境遇に表れる違いは、今日の牧畜の傾向をも左右するものであることが指摘される。

収録刊行物

  • 北方人文研究

    北方人文研究 14 85-102, 2021-03-25

    北海道大学大学院文学研究院北方研究教育センター

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