「きりぎりす(蟋蟀)」の考察/『奈良帝御集』の和歌をめぐって

抄録

「きりぎりす」を詠んだ平安時代の歌集『奈良帝御集』の歌を取り上げる。「きりぎりす」は日本においては、平安時代以降、「こおろぎ」と混同されてきた。歌詞としての「きりぎりす」は、中国語の「蟋蟀」の詩想を継承することが想定されるものの、日本の古代文学において、歌語と実態との関係は曖昧であった。また、日本に伝来当時、典拠となる漢詩の「蟋蟀」には類語が複数存在していた。中国語の「蟋蟀」が受容されて日本漢詩が作られ、「きりぎりす」を詠んだ和歌が作られる。それらの状況をふまえ、先行研究では「蟋蟀」(類語を含む)の受容については、漢詩文の影響、とくに白楽天の詩の影響下にあるという一律的な捉え方がなされてきた。本稿では、白楽天の詩には見られなかった、日本独自の空想の世界(「見立て」「あや」)が存在していたことを述べ、『奈良帝御集』における「きりぎりす」の歌を解釈したい。内容は次のとおりである。 1 『奈良帝御集』の一首 2 平安時代初期の「きりぎりす」 3 典拠となる漢詩文 4 実態と呼称 5 古代詩への影響 6 詩から和歌へ 7 結語

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