農業水利空間にそなわる多面的水利用形態とその価値(3)

書誌事項

タイトル別名
  • Mulitiple Forms of water utilization developed in agricultural water utilization spaces and their values (III)

抄録

国内の城下町や農村集落の伝統的な水路は石,木,土といった素材の特性を活かして護岸をつくり,自然流下方式によって水田へ通水させるととともに,集落の生活用,防火用,親水用,環境保全など,要約していえば,「多面的に利用する空間構造」が成立している。貴重な水の多面的な空間で反復利用は,国民が考え出した集住地の景観美となって表れたものである。しかし,高度経済成長時代に入ると,これらの水利空間にもさまざまな影響が及んだ。これまで存在してきた伝統的水利空間の価値が充分には評価されないうちに,多面的機能をもっていた水利空間は各地で壊れていった。筆者は,この状況を放置できないと考え,現在でも「伝統的な水利空間」の調査活動を全国規模で続けている。1980年になり,農村環境整備センターから「水利遺構」調査委員の依頼があった。この委員会では,全国的な規模のアンケート/調査がなされ,500件を超える情報を収集ができた。その後,「水利遺構の調査報告書」(1988年)となってまとめられた。本文では,この報告書に掲載された各地の農業水利空間の事例のうち,筆者が関心あるものから現地調査をおこない,本文に加えさせていただいた。この間,玉川上水の水利調査にとりくんでいた。2016年に「玉川上水・分水路網の活用プロジェクト」が日本ユネスコ協会の「未来遺産」に登録され,「登録証」が「玉川上水ネット」(玉川上水の水利遺構や保全活動を進めている市民運動グループ)に渡された。筆者は,この「玉川上水ネット」がうけた活動をはじめ,国内の伝統的な城下町を取りまく通水網,水圏・山地が一体となった「水利空間」が残存し,各地にいまも点在している地域など「日本遺産」として登録される価値があると考えている。本文では,この国内の伝統的な水利空間(多面的利用を含む)を守り,継承・活用している様子を探り出し,紹介させていただいた。

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