向社会的行動の促進に向けた社会的意義付けにおける金銭的報酬効果の検証

Abstract

近年,様々な行動を対象とした行動変容支援システムが登場している.多くのシステムは健康増進意識が一定以上存在するユーザの日々の歩行行動の習慣化等の比較的行動変容が容易な行動に注目する.一方で,依存状態にある喫煙・飲酒患者の禁煙・禁酒や勉強が苦手な子供の学習の習慣化,向社会的行動(以降「誘発・習慣化の障壁が高い行動」とする)などの対象行動の誘発と習慣化が難しい.これまで筆者らは,向社会的行動の1つであるパトロールランに注目し,行動変容支援システムを用いた誘発・習慣化の障壁が高い行動を対象とした行動変容技術を検討している.教育・社会心理学では行動変容に必要な動機付けとして自己決定理論を背景とした外発的動機付けと内発的動機付けを定義している.自己決定理論によると人間の動機付けは外発から内発に向けて行動の自己決定性(自発性)が徐々に高くなり,行動の習慣化が行われる.また,自己決定理論において報酬が対象行動の自発性を高める効果(エンハンシング効果)と低下させる効果(アンダーマイニング効果)が存在することが知られている.しかし,向社会的行動の促進を考えたときに,報酬が及ぼすエンハンシング効果とアンダーマイニング効果については十分に検討ができていないという課題が存在する.本研究では,筆者らが過去開発した社会的意義付け介入に対する報酬として金銭的報酬が及ぼす効果について,アンケートを用いた検証を行った.アンケートでは,社会的意義付け介入のみを付加した web 記事と社会的意義付け介入に金銭的意義付けを付加した web 記事の 2 パターンを作成した.作成した記事を用いて,930 名の回答者を用いたオンラインアンケート調査を行った.オンライン調査の結果,社会的意義付け群と社会的意義付に金銭的意義付けを付加した群の両群でパトロールラン意向が高くなることが分かった.また,心理的特徴で分析した結果,外向性や共感性の高い回答者には社会的意義付けに金銭的意義付けを付加した介入の効果が大きく,エンハンシング効果を確認できた.一方で,社会的価値が高い,または,運動の動機づけのうち同一化的調整の低い回答者には社会的意義付けが効果的であるアンダーマイニング効果が確認できた.

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