分散型事業形態からみた現代的企業間取引の特徴とその法的考察 : サプライ・ネットワーク,関係的契約およびコントラクト・ガバナンスを中心に

書誌事項

タイトル別名
  • Legal Approach to Features of Modern Business Transactions under Decentralized Business Model : Supply Networks, Relational Contracts and Contract Governance in Focus
  • ブンサンガタ ジギョウ ケイタイ カラ ミタ ゲンダイテキ キギョウカン トリヒキ ノ トクチョウ ト ソノ ホウテキ コウサツ : サプライ ・ ネットワーク,カンケイテキ ケイヤク オヨビ コントラクト ・ ガバナンス オ チュウシン ニ

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抄録

本稿は,近時のコロナ禍やウクライナ戦争で生じたグローバル・サプライチェーンの分断を素材に,完成品メーカーが一次サプライヤーから中間財を調達することができなくなり,完成品の輸出ができなかった,という事態を想定する。経済学や社会学といった周辺学問領域の知見を借りると,サプライチェーンは,市場と組織の中間に位置する事業形態であること,自律分散型のネットワークを構成していること,その取引関係は信頼を基礎とする長期的継続的なものであること,ネットワークとしての活動を担保するため契約によって調整していること等の特徴を認めることができる。本稿では,このような特徴を有する「分散型事業形態」に既存の法制度(契約法・会社法)を適用することの問題点を分析し,ネットワークそのものを法的概念とすることは困難であるが,二当事者間の契約から出発して,第三者の関連で新たなルールを整備すべきものと考える。次に,継続的な取引関係については,Macneilの「関係的契約」理論を適用するべきことを論じる。市場における単発的な交換取引も「関係性」を有するというCommonsの見解をもとに,すべての企業間取引を「関係的契約」の理論の枠内で検討することができると解する。その際,社会学的考察をそのまま規範として受け入れるのではなく,信義則を通じて,法規範として認められるかどうかを判断すべきである。分散型事業形態が,既存の市場と組織の中間に位置する形態であるという性質上,その事業遂行に当たっては,契約によって調整するメカニズムを採用するほかない(コントラクト・ガバナンス)。組織に関する側面として,契約的企業観にもとづくコーポレート・ガバナンスの議論を参考にできる。しかし,ネットワークにおける相互依存・継続的信頼関係という性質から,いわゆる株主利益第一主義ではなく,ステークホルダー主義で運営せざるを得ないことを示す。最後に,分散型事業形態のこのような特徴を考慮すると,とくに一般的な国際仲裁の手続には限界があると指摘し,あらたな紛争解決制度が必要であることを示唆する。

収録刊行物

  • 比較法雑誌

    比較法雑誌 57 (1), 1-44, 2023-06-30

    日本比較法研究所

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