ドキソルビシン兎心筋症の心筋エネルギー代謝と心機能に対するプロプラノロールの効果

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ドキソルビシンによる心毒性は悪性腫瘍患者の延命が得られるようになった現在,臨床上大きな問題である.これまでにも慢性心毒性を軽減するような治療法が試みられてきたが明確な決め手はなかった.今回ドキソルビシン投与慢性心筋症家兎実験モデルに対してβ遮断剤(プロプラノロール)を投与し,その心筋保護効果を燐NMRを用いて心筋エネルギー代謝と心機能の両面から比較検討した.ドキソルビシン(1mg/kg,週2回静脈投与)もしくは同量の生理食塩水を兎に8週間静脈投与し,2週間後に,ドキソルビシン投与した兎にはプロプラノロール(0.1mg/kg/day)を含む蒸留水をもしくは同量の蒸留水を投与し,生理食塩水投与した兎には同量の蒸留水を経口投与し,それぞれドキソルビシン心筋症群(ドキソルビシン投与群:n=7),ドキソルビシン心筋症+β遮断剤投与群(ドキソルビシン+プロプラノロール投与群:n=7),対照群(コントロール群:n=7)の各7羽,合計21羽を作成した.各群においてランゲルドルフ摘出兎灌流心とし,アデノシン三燐酸(ATP),クレアチニン燐酸(PCr),無機燐酸(Pi),pH,左室発生圧(LV Dev. P)左室拡張末期圧(LVEDP)そして冠流量(coronary flow)を連続的に測定した.実験1として上記の3群に右室ペーシング180beats/minを10分,240beats/minを10分,320beats/minを10分,420beats/minを10分そして480beats/minを60分行った.ペーシング480beats/minにおいて60分後ATPはコントロール群85.6±8.7%に比べドキソルビシン投与群は48.4±1.8%と有意に低下するも(p<0.01),ドキソンビシン+プロプラノロール投与群はドキソルビシン投与群に比べ94.6±10.3%と高値を示した(p<0.01).左室発生圧はコントロール群101.0±5.3mmHgに比べドキソルビシン投与群は69.4±5.8mmHgと有意に低下するも(p<0.01),ドキソルビシン+プロプラノロール投与群はドキソルビシン投与群に比べ92.5±5.3mmHgと有意に高値を示した(p<0.01).左室拡張末期圧はコントロール群4.7±2.5mmHgに比べドキソルビシン投与群は15.7±0.8mmHgと有意に上昇するも(p<0.01),ドキソルビシン+プロプラノロール投与群は-3.7±2.0mmHgとドキソルビシン投与群に比べ低値を示した(p<0.01).実験2として,別の実験1と同様に前投薬して作成した3群(各n=7)に対して低灌流虚血負荷を行った.灌流圧80mmHg10分間行った後,40mmHg10分間,20mmHg10分間と下げ,再び80mmHgとし60分間観察した.その時点でATPはコントロール群100.0±4.0%に対してドキソルビシン投与群は57.5±4.5%と有意に(p<0.01)低下するも,ドキソルビシン+プロプラノロール投与群はドキソルビシン投与群に対して79.3±4.4%と有意に高値を示した.左室発生圧はコントロール群106.5±2.2mmHgに比べドキソルビシン投与群は92.6±2.1mmHgと有意に低下するも(p<0.05),ドキソルビシン+プロプラノロール投与群は97.7±6.9mmHgと高値を示した.左室拡張末期圧はコントロール群4.2±2.5mmHgに比べドキソルビシン投与群は8.3±1.5mmHgと上昇するも,ドキソルビシン+プロプラノロール投与群は-1.1±1.4mmHgとドキソルビシン投与群に比べ低値を示した(p<0.01).各実験において3群間に冠流量の差は認められなかった.結論としてドキソルビシン心筋障害に対してプロプラノロール投与は有意に心筋エネルギー代謝及び左室拡張能を改善させることが示唆された.

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