いじめの傍観者を抑止するために必要な視点とは何か:フィンランドのいじめ防止プログラム(KiVa)の効果をめぐって(教師の指導力 “気づき” の解明のための国際的・学際的研究:教育実践学と脳科学の融合)

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  • What Perspectives Are Needed to Deter Bystanders from Bullying? : On the Effectiveness of the Finnish Bullying Prevention Program “kiVa”(International and interdisciplinary research to elucidatethe ability of teachers to recognize children's behavior:Fus

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抄録

近年のいじめ問題はコロナ禍を経て新たなフェーズに移行したという論考が増えつつある(原、2020)。2020 年に減少したかに思われたいじめ認知件数は近年増加の一途をたどり、とりわけ小学校での認知件数は過去最高を更新している。いじめ研究においても、重要な理論のひとつである「四層構造論」(森田洋司,1986)について新たなモデルの検討を指摘する声が高まっている。四層構造論が提唱されてから 40 年近く経過したことにより、当時のいじめでは想定されていなかったインターネットを用いたいじめや学校における子どもたちの序列(スクールカースト)など、子どもたちの実態との乖離が大きくなってきたためである。しかし、現代のいじめにおいてもいじめの現状を知りながら積極的に関与しない「傍観者」は一定数存在し、彼ら彼女らにどのような指導をするのかという課題は依然として解決していない。また、いじめ研究は潤沢な先行研究を有する分野にも関わらず、「傍観者」を分析対象としたものは僅少であり、その多くは教育心理学的アプローチを前提としたいじめ防止プログラム作成における傍観者対策に言及したものである。海外ではオルヴェウス(Olweus, 1998)の考案したノルウェーのいじめ防止プログラムとフィンランドで開発された KiVa プログラムがその典型である。とりわけ、KiVa プログラムはフィンランドのみならず世界各国で活用されているいじめ防止プログラムであり、その特徴はいじめの傍観者を擁護者(いじめを止めたり注意したりする子どもを指し、森田の四層構造論における「仲裁者」に該当)に変える点にある。だが、その KiVa プログラムも必ずしも効果を持ち得るとは言い難いという指摘も見られる(原、2023)。本論文では、以下の 2 つの点について検証を行った。(1)科研調査データを用い、いじめの傍観者はどのような性質を有しているのかを明らかにし、森田の四層構造論について検証を行う。そのうえで、いじめを傍観する子どもたちに対して、どのような視点が必要なのかを明らかにする。(2)フィンランドの KiVa プログラムを概観し、その特徴と課題について明らかにする。とりわけ、KiVa プログラムの課題がどこにあるのかについて提示する。結論として(1)いじめの傍観者は仲裁経験との相関が強いこと、(2)フィンランドの KiVa プログラムは傍観者に一定の効果をもつこと、(3)今後の日本の子どもたちは、いじめの傍観者でもなく、いじめそのものを共有していない言わば「知らない」子どもが増えることが予想され、連帯責任では解決できないこと、の 3 つを指摘した。

identifier:SH001200011828

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