流域治水関連法に至る道のり(1) : 総合治水からの40年の歩み
書誌事項
- タイトル別名
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- リュウイキ チスイ カンレンホウ ニ イタル ミチノリ(1)ソウゴウ チスイ カラ ノ 40ネン ノ アユミ
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説明
1969(昭和44)年,建設省河川局治水課に都市河川対策室が設けられ,都市河川における治水対策が始まった。その政策の積み重ねのうえに,総合治水対策事業が始まっていく。その基本的な考え方は,(1)流域全体の考慮,(2)ハードとソフトの融合,(3)段階的な整備・安全性の向上である。全国17河川で展開された総合治水対策事業のなかで,最も有名なのが鶴見川だろう。鶴見川では,治水安全度1/10(50mm/h)に対応する洪水流量を1,260m3/sと定め,同規模の豪雨・洪水に対応すべく,鶴見川多目的遊水地を建設した。2003(平成15)年に成立した特定都市河川浸水被害対策法(III章参照)は,河道整備などの従来策では効果的な浸水対策が困難であり,他方で都市機能の中枢を担う地域にあり災害時のダメージポテンシャルが大きな河川を対象に,河川管理者,下水道管理者,地方自治体が共同して治水対策を行うことを推進していくための法律だった。同法で実現した新しいスキームは総合治水対策よりも所管横断的なものといえるが,規制法的な色彩が強かったためか,現場から高い評価は受けていない。また法定の協議会が定められておらず,ガバナンスという面でも至らぬ点があった。この特定都市河川浸水被害対策法などを改正する形で,2021(令和3)年,流域治水関連法(IV章参照)が成立した。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の警告が強まるなかで,その警告を裏付けるように,この数年,激甚災害が相次いでいる。そうしたなかで,2020(令和2)年7月,気候変動を踏まえた水災害対策検討小委員会は,「気候変動を踏まえた水災害対策のあり方について~あらゆる関係者が流域全体で行う持続可能な「流域治水」への転換~」を答申した。流域治水関連法は,同答申を受けて作成されたものである。流域治水関連法では,(1)流域治水の計画・体制の強化,(2)氾濫をできるだけ防ぐための対策,(3)被害対象を減少させるための対策,(4)被害の軽減,早期復旧,復興のための対策を掲げている。特定都市河川浸水被害対策法と比べれば,各段に政策メニューは増えている。また,流域水害対策計画の作成に関し,関係者が一堂に会する法定の協議会を設けたことで,ガバナンスの面でも充実したといえる。ただ流域治水関連法では,森林整備・保全などはカバーされていない。また,違法性・管理瑕疵とはいえずとも発生する水害被害に対して,その経済的被害をどう救済するかという部分にも,課題を残している。その意味では,あるべき「流域治水」としては不十分といえるかもしれない。しかしそれでも,総合治水対策,特定都市河川浸水対策法という流れのなかで捉えれば,その意義は十分に見いだせるだろう。
収録刊行物
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- 水利科学
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水利科学 66 (5), 1-22, 2022-12
東京 : 日本治山治水協会