日本の遺跡におけるニワトコ属Sambucus 核の出土事例およびニワトコ属核土器圧痕の検出事例の分析

書誌事項

タイトル別名
  • Spacio-temporal changes in Sambucus (red elderberry) seed remains and seed impressions on clay vessels in the Japanese Islands
  • ニホン ノ イセキ ニ オケル ニワトコゾク Sambucusカク ノ シュツド ジレイ オヨビ ニワトコゾクカク ドキアツコン ノ ケンシュツ ジレイ ノ ブンセキ

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説明

ニワトコ属核は縄文時代の遺跡から頻繁に出土しているが、現在の日本ではニワトコの果実利用の事例はほとんど報告されていない。そのため、縄文時代におけるニワトコの果実の利用方法を推定する手掛かりが少なく、当時の果実の用途はよく分かっていない。本稿では、1)旧石器時代以前から近現代までの日本列島におけるニワトコ属核の出現率の推移を比較し、2)2023年度までに報告された縄文時代の遺跡におけるニワトコ属核の出土事例および2024年5月までに報告されたニワトコ属核土器圧痕の検出事例の集成を行った。さらに3)縄文時代の遺跡出土ニワトコ属核に伴出する大型植物遺体の傾向を調査した。その結果、日本列島の遺跡におけるニワトコ属核の出現率は縄文時代と近世で増加しているが、地域別に見ると、北海道では続縄文時代以後もニワトコ属核の出現率は高く(21.4~68.0%)、東北地方ではニワトコ属核の出現率が低下する時期が中世(10.7%)と遅く、低下の度合いも緩やかだった。北海道や東北地方のように現在のエゾニワトコの分布域に含まれる緯度が比較的高い地域では、関東地方以南よりニワトコの果実利用が長期間継続されていた可能性が考えられる。また、炭化ニワトコ属核の出現率は北海道や東北地方北部、中部地方の内陸部で高くいずれも75%以上を示していた。さらに、ニワトコ属核と伴出する大型植物遺体の傾向を見ると、未炭化のニワトコ属核にはベリー類の伴出率が高く、シソ属やマメ類はニワトコ属核圧痕資料との伴出率が高いなど、未炭化核・炭化核・圧痕資料といった産状の違いによって伴出する大型植物遺体の組成が異なる傾向が見られた。このことは、ニワトコ属核の状態から推定される果実の加熱の有無や地域によって果実の利用方法や利用目的が異なった可能性を示している。本研究からは、人類によるニワトコの果実利用の差異が核の出土状況の時期差・地域差として反映され、利用の差異が現在のニワトコの分布や亜種の分化に結び付いた可能性を示している。

収録刊行物

  • 北方人文研究

    北方人文研究 18 113-158, 2025-03-25

    北海道大学大学院文学研究院北方研究教育センター

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